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「そ、そんなわけないだろ! しらねぇーよ」
角元は叫ぶ。今すぐ下ろせ、と言いたいところだったが、こんな山道に置き去りにされても困ると理性が押しとどめていた。
「俺は知ってるんです。兄があんたに、いじめられてたって事も」
佐々木の冷たい声に混じり、カリカリと親指の爪をかじる音が車内に響く。普段とは正反対な後輩の姿に、角元もさすがに唖然として言葉を失う。
「兄が死んで、俺は真っ先にあんたを疑った。一緒に同乗していたことも、飲酒していたことも知ってる。あんたが罪をなすりつけたこともな」
「そんなこと……してない。俺は知らない」
震える声で返す。だが、真実は佐々木の言ったとおりだった。
十年前に、確かにトンネルの中で事故を起こしていた。それも自分が運転して事故を起こして、隣で瀕死の状態だった男と場所を変えたのだ。捕まったりして、内定が取り消されるのが怖かった。だから、そいつを身代わりにした。まだ意識のある男を置いて、そのまま逃げ出していた。
「兄があんたを迎えに行くと言っていたんだ。店に着いた時、あんたを待つ間に俺に電話をくれた。その時、電話越しに場所を変われという声が聞こえたんだ。お前じゃあ、間に合わないからって」
あんたが運転したんだろと、暗い瞳が角元に向けられる。
「兄の訃報を聞いて、真っ先にあんたが捕まったと思った。だけど違った。兄の単独事故だと聞かされて、俺はもちろん警察に話した。だけど、証拠がないからと聞き入れてもらえなかった」
「そうだ。俺は何もしてない。お前の勘違いだ。あの日、俺が運転すると言ったが、あいつは聞き入れなかったんだよ」
恐怖はあったが、警察に捕まらないという確証を得たことに、角元は少しだけ安堵する。
トンネルを抜けると、再び闇が車を包み込んだ。
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