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白のスラックスを履いた向井が、すたすたと僕のほうに来る。
彼女は小学生のころは赤いフレームの眼鏡をかけていたが、コンタクトに変わった。セミロングだった髪は、ショートカットになった。
「……高上」
「え? 昔みたいに『向井』って呼んでくれていいよ」
彼女が側に来ると、花のような香りがした。整髪料だろうか?
「遅れてごめん。はい、おわび」
向井はぐっと腕を伸ばし、僕に苺ミルクのキャンディーをくれた。白地に赤い苺がプリントされている包み紙と、僕への渡し方が、なんとも子供っぽい。
「あ、ありがと」
「ううん。いろいろ準備していたら、出るのに時間かかっちゃった。連絡も返せずごめん」
僕は拍子抜けした。もらったキャンディーを受け取り、口に入れる。舌が痛くなるような甘味が広がる。
向井は地面の穴を見ている。
「……これ全部、追川くんひとりで掘ったの?」
僕はまだキャンディーを舐めているので、無言で頷いた。
「そう」
向井が溜息をつく。そして、哀れみの目を僕に向けた。
「大変だったね」
彼女は同情するふりをして、僕を小馬鹿にしていた。
僕は喋りたかったので、急いで口の中のキャンディーを転がした。小さくなった段階で、無理矢理に飲みこむ。
「……ひょっとして」
「うん」
向井が真実を告げた。
「言いにくいんだけど、追川くん、掘る場所を間違えているよ」
……タイムカプセルの位置を記す地図も、用意するんだったな。
僕はカイドウザクラの下にあけた穴を埋めたあと、向井に連れられて、十年前のタイムカプセルのもとへ向かった。
「私が来なかったら、ずっとあそこを掘り続けていたのかな」
「………」
「追川くん。カプセルが出てこなくて、おかしいと思わなかったの?」
「思ったよ。思ったけれど」
情けなくて向井と目が合わせられない。
「タイムカプセルなんてそんなものだろ? いずれは当たると信じて、頑張っていたんだ」
「変なの」
「変じゃねえし」
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