初夏のあわいに消える声

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 墓地には、ゆずの他に誰もいなかった。  お弁当を食べ終えてしまうとやることがなくなって、墓石の隣でゆずは横になる。芝生の上にある墓石はつるつると硬くて、でもなめらかそう、と寝ころぶたびにゆずは思っていた。遠い空に雲が流れていってまどろみ、その一瞬に思える空白ののちに――  ふと気づけば、かたわらに彼がいた。  ゆずは、息をとめた。  今まで何度も何度も、名前をいくら呼んでも、泣き叫んでも、彼が夢に現れることはなかった。どれだけ会いたかったか。  ふるえる手をのばそうとしたけれど、それで消えてしまうかもと思うと、触れてみたいのにそうできなかった。彼は、ゆずが脳裏で再生し続けた記憶通りの完璧さで弱くほほ笑むと、 「来てくれて、ありがとう」  とつぶやいた。  泣きたくなかった。本当は。  でも、こんな笑顔で、この距離で、前と同じ姿でそう言われたら、もう泣いてしまう。  今日は、笑顔でいたいと思っていたのに。ゆずが両目にこぼれる涙をぬぐおうともせず、 「会いたかった」  と小さく答えると、彼はゆずの背中に手をまわして、その体を優しく抱きとめた。  信じられない、という驚愕と、これは夢だという確信が急激に混ざり合って、ゆずは強い目眩を感じながら、 「このまま連れていって」  と言っていて、それはまぎれもないゆずの本心だった。  あの墓地の静謐な底で、彼と一緒に眠ることだけが、ゆずがどこまでも求めていることで、その願い以外何も浮かばない。この五年間ずっと。
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