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その5
「幸いにもイルダはきちんと育っていた。存在を公表されていなかったり、塔で一人暮らしさせられてたり、あれにいじめられていたりしていたから、俺的には不満足だけどね。でも、お陰でここで夜を過ごせたし、イルダの話を毎晩聞いて寝顔を見ることも出来た」
言いながら、ラーナ様が私の頬を撫でる。
「蛙との結婚は、ただの嫌がらせと試験だ。けれど毎年会いに行くようになって、イルダに恋をした。食べたりしないから、結婚してくれるイルダ?」
上目遣いにこちらを見つめお願いをする。こんなに素敵な人が、私に愛を囁いてくれる。それはとても嬉しくて、夢見心地なことなのだけど、でも……。
私は逃れるように両手で彼の胸をそっと押して、二人の間に空間を作った。
「イルダ、俺が嫌い?」
そう訊ねるラーナ様の顔が見れずにうつむいてしまう。
「そうではなくて、だって、初めて会った人なのに」
「初めてじゃないよ。婚約者だよ」
「でも、見慣れないです……」
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