その1

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その1

 王宮の本館にある謁見の間。百名は軽く収容できる大きさの部屋にも関わらず、そこに今いる人数は四名のみ。国王と宰相と騎士団長、そして私。他の者は入らぬように下がらせている。私達は互いに話をすることもなく、静かにお客様が来るのを待っていた。  しばらくして扉が開き、二人の男性が入ってくる。 「ようこそ、おいでくださいました」  細心の注意をはらって美しく優雅に見える角度で片足を引き、膝を曲げる。目線を下げ、落ち着きのある声で挨拶をする。王家の一員として最上級の挨拶を。私は心の中で唱えつつ、流れるような動作でそれを行い、相手の反応を待った。   「ゲゴ」  喉元で響かせる声が聞こえる。それを合図に顔を上げ、真っ直ぐお相手の姿を見つめた。ふんだんに刺繍が施された淡い水色ベルベット生地のコートとウエストコート。ブリーチズは膝までの丈で、白い絹靴下が清潔さを醸している。そんな素敵な衣装に包まれているのは、二足歩行で成人男性と同等背丈の深緑色をした蛙。あごを引いてこちらをまっすぐ見返して、まぶたが半分ほど下がっていることから、機嫌よく微笑んでいると思われた。……多分だけど。
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