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むうっと口を尖らせて、ラーナ様が訊いてくる。さっきの怒っている表情も美しかったけれど、今の拗ねた表情もやっぱり美しい。
「イルダ?」
「だって、……私、食べられてしまうんですよね」
美しい人に愛していると言われて、嬉しくないわけがない。だからこそ私はその言葉を胸に抱いて、静かに食べられたいと思った。
「食べられる?」
「姉姫様がおっしゃいました。魔物の国で結婚式を挙げたら、私はそのまま生贄として王子に丸呑みされてしまうんだって」
「……」
「ラーナ様?」
「ほんっと、ろくでも無いことしかしねーし、言わねーなあいつ」
地を這うような低い声で呪詛を吐く様にそう言うと、ラーナ様が頭をがしがしと掻く。すっかり乱れてしまった髪の毛を直したくて私が手を伸ばすと、その手を掴まれて向き直った。
「最初から、話をするよ」
「はい?」
「俺がこの国に初めて来たのは七年前。イルダの父がたおれ、その弟が新王になってからだ。現在の王は小心者で政をする器ではない。行き詰まったこの国をどうするか? 残すか滅ぼすか、どのように利用するかを決めるために、俺は査察に訪れたんだ」
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