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ジェットコースターのような人生を送ってきた旬に、沙也加は驚く。「大変だったんだね」
「まあ」今となっては、もう、過ぎたことだと旬は言った。
「ねえ」
「なに」
「もうしない?」
「何を」
「襲ったり、しない?」
「しない」
「絶対?」
「ああ」
「ほんとに?」
「くどいな、しないったらしないよ。あの時は俺もどうかしてた、だから反省して、こうしてここにいる」
「わかった、じゃあ許してあげる。剣道、頑張ってね」
「あ、ああ、ありがと。って、お前も剣道しなきゃだぞ」
う、ん、と口ごもる沙也加。「あ」と顔を上げる。
「なに」
「道場、再建できるといいね」
ああ、と歯切れが悪くなる旬。「道場のこと、まだ誰にも言ってないんだ。あんたが初めてだ」
「え」
沙也加の声を待つことなく、旬は「じゃあ」と踵を返した。
どんどん小さくなる旬の背中を見つめている沙也加。旬の姿が見えなくなっても立っていた。
いつの間にか、白いものがちらほらと舞っている。
(了)
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