上総は出遅れた

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上総は出遅れた

中村の店(現住居)にパスホートを取りに帰ったお陰で空港に着いたのは夕方になってしまった。 「チッ! すっかり夜だよ····直也が居ることを願うぞ」 上総はブスくれながら舌打ちをする。 「そう、 ボヤくなよ。 もしかしたら居るかもしんねぇだろ」 中村は焦る気もなく上総の車椅子を押しながら喫煙所を探す。 「あった、 あった~。 上総、 一服しような」 中村はヒョイヒョイと車椅子を押して喫煙室に入ろうとした。 「中村さん! ちょっと待てよー! 」 「なんだ? 俺はヤニ切れしてんだよ」 中村はポケットからショートホープを取り出しすぐさま火をつけようと口にくわえている。 「チケット売場に直也らしいのが居るんだよ! 中村さんはタバコ吸っててくれよ! 俺、見てくるからさ」 「上総ー! 行き当たりばったりで行動するなよ! 俺が吸い終わるまで待てよ」 中村の声は上総には届かない。 (あの野郎····勝手に行きやがったな) 中村は吸い終わる前にタバコを消して上総を追いかけた。
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