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稀人(まれびと)‐5‐
「……さすがにやりすぎやで、秋鹿さん」
煌からすれ違いざまにたしなめられるが、鎮はその背中を横目で追うことしかできない。
鼓動が乱れ、自分の中に制御できない生き物がいるようだ。
駆け寄った煌に抱え起こされた男性が、その腕を借りながら戻ってくると、崩れるように鎮の前に膝をついた。
「失礼いたしました。赤眼の白虎」
「!」
「……ああ、カラコン、さっきので吹っ飛んじまったのか。その辺には、……落ちてねぇなぁ」
片目を押さえた鎮を見て、渉が地面に視線を落とす。
「目、ケガしてない?ならよかった。……この人も、驚いてないみたいだし……」
ちらちらと男性を見る槐から囁かれて、鎮は、男性に向き直った。
「なぜ、俺を白虎と?あなたは、どうしてここに?」
ピジョンブラッドの瞳を見上げて、血の気のない青白い顔の男性が柔らかく微笑む。
「この場所そのものが清浄ではありますが、金の結界で、さらに浄化されていた。私の力が減じている今、御力に頼らせていただきました」
答えになっているような、なっていないようなことを言う男性だが、ふざけているような気配はまったくない。
「あの、お名前を伺ってもいいですか?具合が悪いなら病院に、」
「失礼いたしました」
しゃがんで目を合わせた渉を遮って、男性は頭を下げた。
「我が名はキラン。アグニの村で、アカシャをしておりました」
「……えーっと……」
(やべぇ、半分も理解できねぇ)
これはどこから尋ねていくべきかと悩む渉の隣で、鎮も腰を落とす。
「ここは母の墓所なんです。なぜ、ここに入ることができたのですか?」
「この場所を、これほど清らかに保っていらっしゃるのは、ご母堂の御霊でしたか。結界は破られてはいなかったでしょう?順応したのです」
「順応?それは、っ!」
突然の爆音が、鎮から言葉を奪った。
ドォン!!
ドン、ドン、ドォォォンっ!
”キラン”と名乗った男性が湖の方向を向いて、弾かれるように立ち上がる。
「ここの結界は、解かれてしまったのですね。私のせいで……。白虎、もう一度、結界を。ここからは決して出ないように!」
呆気に取られる若者たちを置いて、キランは颯のように階段を駆け下りていった。
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