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崩壊する日常‐4‐
「僕だって、かなり言われてきたし」
「嘘くさいやチャラいは別もんだろーが。だいたい、異国顔とかブーメランだろ。オレは半分日本人だけど、オマエは日本の血なんか入ってねぇくせに」
「残念、東雲ですぅ。いっつも、その顔でナンパしまくってる渉と、一緒にしないでくださいぃ」
「顔面はオマエだって便利に使ってるだろ。新歓でもきゃいきゃい言われてたじゃねぇか」
「そうだけど、本質を見ない誉め言葉なんて、貶されてるのと同じだよ」
槐の皮肉な笑顔に、煌の目が丸くなる。
「なんや、槐がめっちゃ賢そうなこと言うとんな」
「どんだけ僕が馬鹿だと思ってるの?」
「俺と同じくらい?」
「高校で留年の危機にあった煌と?うっわ、サイアク」
「いやいや、帰宅部のオマエと比べてやんなよ。煌は剣道疲れを回復するために、授業出てたんだから」
「それって庇ってくれとんの?悪口やなくて?」
「ほぼ寝てるもんね」
「まあ、それは否定はでけへんな。ほれ、いつまでもこんなとこに居んといて、はよ行こうや」
歩き出そうとして、振り返った煌が思わず吹き出した。
「すっごい顔になってんで、渉。自分のこと、ちやほやせぇへん女の子がおったの、そんなに不満なん?」
「そうじゃねぇけど」
渉の顔には、「不満ではないが不本意である」と書いてあるようで。
「はははっ、まあ、仕方ないんちゃう?普通の子やないんやから。キツイも、普通の理由やないと思うで。なんつっても、鎮が懐いてる子やからな」
「懐いてる。……そっか、それがぴったりだ」
「ぴったり?」
訝しそうに、渉が槐を見下ろした。
「だって、あんな年下の、あんな不思議な子だよ?なのに、すっごく嬉しそうにしてたから、鎮」
「あー」
渉もその姿はちらりとしか確認していないが、「あの少女」はせいぜい十一、二歳くらいに見えた。
市松人形のような、さらさらとした長い黒髪。
かわいくないわけではなかったが、少しバランスが悪いと思えるほどの、大きな黒水晶の瞳。
「ま、ふつーじゃあねぇよな。いろいろ光ってんだし、浮かぶんだし、……アイツが懐いてんだし」
「何がキツイんだろうね」
槐に見つめられて、渉の眉間にしわが寄る。
「まだ言うのかよっ」
「いや、大事やろ。俺らやって、キツイて言われる可能性、大やし。そうなったら帰れって言われんの、こっちやで」
「だね。あの様子じゃ、あの子のほうが大事そうだよね、鎮は。……そんな相手がいたんだなぁ」
「そんなって、やっぱカノジョなんかな」
「ロリコンなのかもな」
やっといつもの余裕を取り戻した渉が、槐と煌に片頬で笑ってみせた。
「どうりで、同年代にキョーミ示さねぇと思ったよ」
「えー、ロリコン……。鎮が……」
「案外、俺らと同い年くらいかもしれへんし」
「オマエはほんっとに鎮をかばうな。推しかよ」
異常事態であることも、何かとんでもない危険が迫っていることも、わかっている。
だからこそ、たわいのないバカ話を続けながら、仲間たちは鎮がいるはずのヴィラへと向かった。
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