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不調和のバランス‐１‐
ごった返しているキャンパスを悠然と歩く異色の四人は、自然と周囲の視線を集めた。
ため息やら短い歓声やらとともに、まなざしの集中砲火を浴びているイケメンの口角が上がる。
「さっすが、大学は高校とは違げぇな。外部から入ってくるヤツらのほうが多いからもー、久しぶりに目立っちゃって困っちゃうー」
「全然困ってなんかいないじゃない。渉のウソツキ」
金髪頭に見上げられたヘーゼルの瞳が、にやりと笑い返した。
「お互い慣れっこだろ。オマエ、般教が始まったら、しばらくうるさいんじゃね。その見た目で“東雲 槐”くんだからな」
「あー」
槐と呼ばれた金髪の学生の肩が、がっくりと落ちる。
「また“ニホンゴお上手ですね。え、英語が苦手？！ウソォ～！”とか言われちゃうのかなぁ」
「前よりは、ましになったやん」
短髪の学生に、にやっとした笑顔を向けられた槐の唇が尖った。
「なんだよぉ。見た目でがっかりされるだけで、英語の点数は煌よりいいんだからな。おまえ、よくあの成績で大学上がらせてもらえたじゃん」
「……煌はスポーツ推薦……」
ぼそっとつぶやいた白髪の学生を、槐が笑顔で振り返る。
「あ、そっか！去年、全国行った剣道があるもんね。納得納得、っぐぅぇ！」
「ちゃうわっ！鎮、訂正せぇよ！槐の首、このまま締めるでっ」
「いいけど」
「そんな薄情な！死ぬっ。腕、離せって！今度、課題手伝ってあげるからっ」
「だが断るっ」
「あ～、腹減った」
ギャイギャイと騒ぐ槐と煌には目もくれずに、渉はスマホを取り出した。
「何か食ってく？……ちょうど12時か」
「ぐ、げほっ……」
「あんくらいでオオゲサやな。少しは鍛えろや」
腕を離した煌が槐を鼻で笑う。
「脳筋が加減を覚えるほうが先じゃない？あ、脳みそないから無理か、ごめんごめん」
「なんやと？！……っ」
再び槐につかみかかろうとした煌の手を、白髪の鎮がたしなめるように軽く払った。
「いい加減うるさい」
「はい」
「相変わらずの番犬っぷりだねぇ」
ぺろりと舌でも出しそうな槐に、煌が渋面を作る。
「……やかましいわ」
「オマエらはあいかわらずだなぁ。通常運転すぎて、入学式だってこと忘れちまうな」
底抜けに無秩序で、活気にあふれるキャンパスをぐるりと見渡した渉が、鎮を振り返った。
「今日はとてもじゃねぇけど、外でメシ食えねぇな。しょうがねぇ。コンビニでテキトーに買って、オマエんとこで食おうぜ」
白髪の前髪で隠されていない、片方の黒い瞳がじろりと渉を見上げる。
「また？」
「鎮んとこが、こっから一番近いしな」
賛同する煌は無視して、鎮は黙って槐を指さした。
「バカ！」
ぱしっと。
渉に叩かれた艶やかな白髪頭が、小気味の良い音を立てる。
「こいつの部屋で飯なんか食えるかっ。ビョーキになるわ」
「え、嘘やろ。こないだ、みんなで掃除したばっかやん」
「オマエ、こないだ片付けたあのゴミの山、集積所に出したんだろーな」
「あ、忘れてた！」
槐のステキに青い目が、無邪気に煌と渉を見上げた。
「なんやて？！おま、あのゴミ袋の山と同居しとんのかいっ」
「えへへ」
先ほどの勧誘の女学生たちが見たら、黄色い悲鳴をあげることだろう。
首を傾げて笑ってみせる槐は、アイドルのように可愛らしい。
だが。
「笑って誤魔化すんじゃねぇっ！」
「お前の部屋の写真、SNSに上げんでっ、この外見詐欺！」
「……」
貴重な春休みを丸々一日つぶして、やっとの思いで槐の汚部屋を片付けてやった仲間たちは、それぞれかなりの勢いをつけて、金髪頭を小突き回した。
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