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不調和のバランス‐4‐
「ぶつぶつ言いながらさ、結局優しいよね、高梁さんって。いいなー、鎮は。ロボット掃除機もあるし。あ、そうだ!」
「断る」
立ち上がった鎮の足に、槐がすがりついた。
「まだなんにも言ってないじゃん。ねー、ここ掃除してもらえるじゃん!部屋余ってるじゃん!シェアハウスさせてよー、うわぁっ」
鎮に軽く蹴飛ばされた槐が、悲鳴を上げて転がる。
「出禁食らうのは、槐のほうやな」
「なんでさー。ねー、まもるぅ、シェアハウス」
「あ、まもるぅ、オレ、キリマンおかわり!」
追いすがる槐と、おねだりをする渉を振り返って、鎮は盛大なため息をもらした。
◇
「入学式、無事終わりました。はい、問題はないです。で、今日は友だちんとこ泊まります」
リビングの片隅で、スマートフォンを耳に当てた煌が、大きな背中を丸くして電話をかけている。
「はい、はい。そうです。秋鹿さんのところです。はい、わかりました。では、おやすみなさい」
通話を切った瞬間、煌はひとつ深呼吸をした。
「いつまでたっても、すっごく緊張してるね。もうお世話になって……」
槐はゲームコントローラーを握りながら、65型テレビの大画面から目を離さない。
「えっと高校のときからだから……。うわぁ~、やられたっ、渉の鬼畜ぅ~!」
「相変わらずヘタクソだな。……あの師範は今でもシーサー顔?少しは柔らかくなった?」
コントローラーを脇に置いて、渉が煌を振り返った。
「狛犬師匠って、門下生から呼ばれとるよ。もちろん、敬意を込めてやで」
スウェット姿の煌がふたりの横に戻り、胡坐をかいて座る。
「獅子から犬にはなったんだ」
「渉ってば、煌のお師匠さんのこと、知ってるんだっけ?」
「まだやんのかよ」
コンティニューを選択する槐に苦笑いを浮かべ、渉も再びコントローラーを手にした。
「ガキのころ、試合会場で見かけた程度だけどな」
「渉が剣道やってる姿って、想像できないなー」
「昔の話だよ」
「師範も渉のこと覚えとったよ。お前の剣道って、中学んときは全国レベルだったって、」
「そうだったかな。はいよっ!」
渉は手にしていたコントローラーを、煌に投げつける。
「えっ、いきなりなに?」
「飽きた。もー寝よって、鎮いねぇじゃん!」
立ち上がり振り返った渉は、大袈裟に身をのけぞらせた。
「さっき上がってったから、自分の部屋じゃない?……やった、勝ったー!煌が床で寝てね!負けたんだから」
「俺は勝負なんてしてないやろ!槐が寝袋使いっ」
「いやですぅ。それに、ベッドだと煌、足はみだすじゃん」
「寝袋は体半分はみ出すんやでっ」
「涼しそうでいいじゃん」
「寒いわっ」
「相変わらず仲がいいなぁ」
「違うっ」
「ちゃうわっ」
槐と煌が、にやけている渉を同時に振り仰ぐ。
「ほら、息もぴったりなんだし、同じベッドに寝たらいいんじゃね?」
「こんなデカいのとヤダよ!」
「じゃあ、オレと寝る?……可愛がってやるぜ?どっちもイケるから」
「……渉が言うと冗談に聞こえない」
「冗談じゃねぇけど」
顔を引きつらせた槐に意味深に微笑んで、渉は二階へと上がっていった。
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