侍王子と和菓子の姫君

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 靴を拾ってくださった方は、どんな方なんだろう。休み時間に探しに行かないと。 「こら、うるさいぞ。みんな席に着け」  頭の中で王子様の妄想をしていた私は、勢いよく扉を開けて入ってきた明石先生に驚き、いつの間にか胸の前で組んでしまっていた手を、慌ててほどいた。 「今日からこのクラスに編入する生徒を紹介する。八彬(やすぎ)入りなさい」  明石先生が手招きすると、男の子が入ってきた。薄い唇に、奥二重の涼し気な目をした彼は、少し癖のある黒髪をポニーテールのように結んでいた。編入生が来るというだけでも珍しいのに、髪の長い男の子だったからか、教室が一気にざわめきだす。  和装が似合いそうなお顔の方だとしげしげ眺めていた私は、彼の手にぶら下がっているモノを見て、思わず立ち上がってしまった。膝の後ろにあたった椅子が大きく音を立ててしまったせいで、みんなの注目を集めてしまったようだ。 「どうしたんだ、三上(みかみ)。急に立ち上がって」 「あの……。その靴、多分私のものなのです」 「ん、靴? ああ、八彬が駅で拾ったと言っていた学校指定のローファーか」  明石先生の言葉に、今度は教室中の視線が彼の持つ靴に移ったのがわかった。  八彬君は無言で私の前まで来ると、片膝をつき靴を足元に置いてくれた。靴の内側に、三上瑠璃と書かれているから、間違いなく私のだ。 「靴を落として行ったのは、そなたであったか。急ぎ追いかけたのだが、途中見失ってしまったのだ」 「ご迷惑をおかけして申しわけありませんでした」 「構わぬ。それより、素足で歩いたのであろう。大事ないか」 「は、はい。大事など何もございません。拾ってくださり、ありがとうございました」  時代劇に出てくるお侍さんみたい喋る八彬君につられ、私も古風な喋り方になった。 「ならばよい」と彼は口角を僅かに引き上げ、笑いかけてくれた。 「さて、三上の靴も返ってきたことだし、八彬に自己紹介をしてもらうとするか」  明石先生に促された八彬君は、洗練された動作で立ち上がり、教壇へと向かう。  しゃがんでいたし、小声だったから、多分みんなには聞こえていなかったんだよね。  席に座ったものの、私は落ちつかない気持ちで壇上の八彬君を見つめていた。
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