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「瑠璃、遅い! 遅刻するだろ!」
岡見台東駅の前で仁王立ちしているのは、小学校からずっと仲良しの白橋凛香ちゃんだ。私が待ち合わせの時間より十五分も遅れてしまったんだから、怒るのも当然なんだけど、とっても怖い顔をしている。
「凛香ちゃん、ごめんなさい。私、夜更かしをしてしまって」
「話はあとで聞くから! とにかく急ぐぞ。次の電車がもう来る」
大急ぎで改札を抜け、疾風のように駆けていく凛香ちゃんのあとを追いかける。脚の遅い私が、陸上部のスプリンターである凛香ちゃんに着いていくのは難しい。
「凛香ちゃん、そんなに早く走れません」
「これを逃したら遅刻確実なんだって!」
立ち止まり振りかえった凛香ちゃんは、私の腕を掴み、ふたたび走りだした。
必死に走っていたら、ホームに上がる階段の段差でつまずき、靴が片方脱げてしまった。
「あっ、待ってください。靴が」
「待てない。電車がきてる! とにかく乗るぞ」
立ち止まろうとしたものの、凛香ちゃんに引っ張られるまま、私は電車に乗り込んでしまった。
背中の後ろで扉が閉まっていく音がした。慌てて振りかえり、脱げてしまった靴を探してみたけど、どこにも見当たらない。たしかあの辺りで脱げたはずなのに、どこへ行ってしまったんだろう。
「なんとか乗れたな」と、凛香ちゃんは、手を団扇のようにしてあおいでいる。
「あのう、凛香ちゃん」
「わかってるって。どうせまたアレのせいで寝坊したんだろ」
呆れ顔で凛香ちゃんが言うアレとは、私の好きな、プリンセスが出てくる物語のことだ。
「昨日は『いばら姫』を読んでいたのです」
「まったく。よく飽きないな。この前も読んでいなかったか?」
「いろんな版があるので読みくらべるのも楽しいんです。あ、それよりも大変なんです。私、靴を片方ホームに脱いできてしまって」
「は、ホームに?」
あんぐりと口を開けたまま、凛香ちゃんが私の足元に視線を落としたとき、電車の外から大きな声が聞こえてきた。
何ごとかと首を伸ばし電車の外に目を向けた凛香ちゃんにつられ、私もホームを振りかえった。
発車ブザーが鳴った電車に向かって突進してきたのは、ブレザー姿の男の子だった。
「何してんだ。あいつ」
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