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「拙者、八彬桂太郎と申す者にござる。異国より参った。以後お見知りおきくだされ」
一瞬の静寂のあと、教室がドッと笑いに包まれた。私は、彼の喋り方を先に聞いていたこともあって、笑う気にはなれなかった。
もしかして八彬君も、私みたいに日本の伝統文化を受け継がないといけないお家に生まれた方なのではないだろうか。そうでもなければ、あんな古風な話し方なんてしないよね。
大正時代から続く和菓子屋に生まれた私は、先代女将のおばあ様、現女将のお母様から、りんどう庵にふさわしくあるようにと育てられた。習い事はお茶にお華。お友だちがバレエやピアノを習っていると聞いて、私も習いたいと言うと、おばあ様に連れていかれたのは、日本舞踊やお琴のお教室だった。
晴れ着はいつもお着物で、かわいいゴムやカチューシャの代わりに簪。本当によく似合うと、おばあ様やりんどう庵の職人さんたちは褒めてくれたけど、私は煌びやかなドレスを着るお友だちが、いつも羨ましくて仕方がなかった。
話し方だってそうだ。つねに丁寧な言葉で話しなさいと教えられ、言いつけを守っているものの、ときどき周囲から浮いていると感じてしまう。笑われることも多いし。
りんどう庵のことは誇りに思っている。四代目のお父様や職人さんたちが作るお菓子は芸術品のように美しいから。お母様がお店を切り盛りしたり、お茶を点てたりしている姿を見ていると、私もいつかあんな風になれたらと思う。
だけど、自分が女将さんになる未来は描けずにいる。不器用で物覚えの悪い私が、とても同じようにできるとは思えなくて。
八彬君は笑われていることを少しも気にする様子なく、茶道の先生みたいに美しい所作で背筋をスッと伸ばしたまま頭を下げた。
「八彬は生まれも育ちもカナダなんだそうだ。わからないことが多くあるだろうから、みんな温かく迎えてやってくれ。しばらく誰か面倒をみてやってくれないか。校内の案内もだが、日本のことを色々と教えてやって欲しいんだ」
明石先生の言葉で、みんなの笑い声は収まった。帰国子女なら多少言葉遣いがおかしくても仕方がないと思ったのかもしれない。
だけど、不思議。カナダで育ったのに、どうして八彬君はとても古風なんだろう。
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