罪の果て

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罪の果て

 午前七時四十分。通勤の乗客でごった返す駅のホームで、今日も難なく君を見つける。  ゆるく巻いた髪に、男ウケの良さそうな定番のピンクのスプリングコート。  いつもと同じ時間、いつもと同じ車両。変わらない、いつもの朝が始まった。  広いオフィスで、君と席が離れているのは幸いだ。遠い方が、仕事をしながら君を見つめても誰も気づかない。今日もずっと、君を見ててあげる。  ……ああ、僕からの内緒の贈り物に気がついた? 悪いけど、笑顔よりも泣き顔よりも、怯える君の顔が最高に魅力的なんだよ。だからつい、余計な意地悪をしたくなってしまうんだ。でもそんなにキョロキョロしていると、目立ってしまうよ?  本当に、一日中寝ても覚めても、僕は君のことを考えずにはいられない。僕の人生は、君が狂わせてしまった。だから君の人生も、僕と一緒に狂わせてしまいたい……。  "さあ走れ、走れ   二人だけの鬼ごっこしよう   どこへ逃げても追いかける   必ず君を追いつめる   穢れた君となら   罪の果てまで"  午前十一時。アパートの部屋から、今日も君の声が聞こえてくる。電話しているの? 今日はなんだか慌ただしい朝だ。  しばらくすると、君は部屋から出てきた。初めて見るような派手なメイクだ。休日ならこんなものなのか。なんにしろ、気に入らない。服装も、ふと香った香りも、いつもとは雰囲気が違う。  一体どこへ行くのだろうと思ったが、すぐに分かった。今日はデートの日なのだ。  待ってて。君の幸せはすぐに、僕が正してあげるから。  その日の夜──。真っ白な光の中に、ぼうっと、何か赤いものが浮かんで見えた。霞む目をよく凝らすと、それは血溜まりが広がっているように見える。またさらによく見ると、男が一人、うつ伏せに無様に倒れているようだ。そしてその男の傍らには君がいて──切り裂くような君の叫びが──……  僕を、くすぐった。  その瞬間、すべての光景は掻き消え、気がつくと、暗い天井だけが目に写っていた。……なんだ、夢じゃないか。つまらない。僕は布団を引き被り、再び眠りについた。  絶対に、絶対に僕は君を放しはしない。思いを遂げる、その日までは……。  "さあ走れ、走れ   二人だけの鬼ごっこしよう   どこへ逃げても追いかける   必ず君を追いつめる   穢れた君となら   罪の果てまで"  "さあ走れ、走れ   二人だけの鬼ごっこしよう   どこへ逃げても追いかける   僕が君を追いつめる   僕の大事な愛する人を   見るも痛ましい姿に変えて   消し去ったのは君だろ   苦しみの底に   君も道連れ   穢れた君となら   罪の果てまで"  罪の果てまで──。
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