「あの日の約束」

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春に真っ赤なだるまさんに会いに行く。 今年で何度目になるのだろう。 毎年ひとつ、一番可愛いだるまさんを買って帰る。 「今年はどのだるまにするか」 白髪交じりの短髪で少しだけ背の高い、私のハンサムがそう尋ねる。 私は「あなたに似てるのがいいわ」と、少し茶化したように答えた。 ハンサムが頬を膨らませ「そんなに腹は出てないぞ」と言う。 年をとり、最近お腹が出てきたハンサムへ、私は体系がだるまそっくりだと言い返す。 そんなやり取りをしつつ、華やかな露店を見て周り、活気あふれる道をはぐれないように歩く。 「あれがいいわ」 ふいに足を止めて、私はハンサムの腕を掴む。 私の勝手な思い込みと勘違いかもしれないけれど、視線があった気がした。 去年より大きなだるま。 全然似てないはずなのに、隣にいるハンサムそっくりに見えて、なんだか可笑しいけれど、私はそのだるまを気に入り、買ってもらった。 片目に墨が入り、ウインクしたみたいなだるまさん。 「今年は大きいな」 だるまを吊るして歩くハンサムが重いとぼやく。 「私が気に入ったんだからいいのよ」 「おまえがいいならいいけどな」 「ありがとう」 嬉しくてにっこり笑う私に、ハンサムもにっこりと返す。 そして帰りは決まって二人でそばを食べて、温泉でゆっくりして帰るのが、いつものスタイルだった。 美人の湯に浸かり、都会とは思えない緑のある大好きな温泉。 ここは水に恵まれており、そば作りが盛ん。 地下の湧き水を利用した人工の滝も植物園も私たちの好きな場所で、時々足を運んでは静かな時間を過ごすことが、歳月とともに増えてきた。 初夏の訪れとともに、ナンジャモンジャの木に雪が降る。 「そろそろ見頃かしらね?」 「今年は暖かいからな、もう見頃かもな」 真っ白な花が雪のように見えるナンジャモンジャの木。 その珍しい花を、私は毎年二人で見に行くことを楽しみにしている。 ハンサムが「明日、行ってみるか」と返事を返してくれたことに、私は心が弾むようだった。 夏になり、寺でほおずき祭りが行われた。 楽しげな音楽や子供たちの声が賑やかに彩る祭り会場は、懐かしい露天や色鮮やかなほおずきが並び、私はあれもこれもと視界を欲張りながら歩く。 「……おい」 ふいに呼ばれ、私はやっと足を止める。 「危ないぞ」 「あ、ごめんなさい」 人にぶつかりそうになり、私ははっとして謝る。 人が大勢行き交う中、きょろきょろして歩いていた私を心配して、ハンサムは私の手をとって歩き出す。 しわくちゃな大きな手としわくちゃな小さな手。 年甲斐もなくドキッとしたが、伝わるその温かさがとても優しかった。 大きな鉢に入った見事なほおずきから、軒下にいくつもつる下げてある小さなほおずき。 夏の風物詩でもある、風鈴と一緒に風にそよぎなんとも涼しげ。 「見事ね」 りっぱなほおずきの鉢を眺めて、私が見惚れていると、 「そんなに大きな鉢は持って帰れないぞ」 ハンサムが困った声を出す。 「見てるだけよ」 さすがに持ち上がらない大きな鉢が欲しいとは言わない、と私はクスリと笑う。 大きなほおずきは見事だけれど、小さな家に置くには大きすぎる。 私は、大中小とさまざまなほおずきの中から、ぶら下げて帰るのにちょうどいい、可愛いほおずきを選んだ。 まだ緑の房が新しい若いほおずき。 白い籠に入れられたまだ小さなほおずきは、抱えきれないほどのオレンジの房と緑の房をつけ、ときより風に遊ばれて揺れていた。 手を繋いだまま、音楽を聴き、露店をめぐり、寺で小さなデートを楽しんだ。 季節は廻り、今年も可愛いだるまさんに会いに行きます。 いつも隣で持ってくれたあなたがいないので、今年からは小さなだるまを買います。 夕日のようなオレンジの房を揺らしていたほおずきの種。 一緒に蒔く約束は、生まれ変わったら果たしてくださいね。 あなたと何度も足を運んだ寺への道は、私にとって恋道。 駅から続く変わる景色と変わらないもの、私は今年も優しかったたくさんの思い出に会いに行きます。 『来年も一緒に……』 あなたとの約束は、生まれ変わっても『はい』と返事をします、だから、どうかまた私を愛してくださいね。 私のハンサムはあなただけだから。
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