思い出して

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思い出して

「はぁ…はぁ…はぁ……」 ここまで走ってきたらもう大丈夫だろう…… 最近なんなんだよ。 もういい加減にしてほしい。 ここ1ヶ月ほど前から俺の周りを誰かが付け回している。 ストーカーというやつだ。 男の俺が?ストーカーに合うなんて…… 恥ずかしくて友達にも相談できていない。 「……くそっ!一体誰なんだよ」 真っ直ぐ家に帰ることも出来ず、この1ヶ月は遠回りをしストーカーを撒いてから家に帰る日々。 俺を付け回している奴を捕まえようと一度だけ振り返った事がある。 やはりそこには誰もいない。想定内。 そのまま来た道を走りながら戻り、ストーカーを探したことがあるが、誰もいなかったんだ…… たしかに俺の後ろを歩いていたはずなのに。 俺の歩く音と同じように後ろから足音がする。 俺が走ると走る足音が…… 俺が止まるとピタッと足音が止まる。 これは勘違いなんかじゃない。 だけど見つからなかった…… それ以来後ろを振り向くこともせず、ただただ俺の後ろを付け回してくる足音から逃げる日々。 ただ付け回されているだけだから…… 証拠も何も無いから警察に相談してもパトロールを強化しますと言われるだけ。 気味悪さを感じながらも、家までは知られていないという謎の確信のおかげで、なんとか気持ちを保ってこれた。 「なのに……なんだよ……これは…」 俺の家のポストに手紙が入っていた。 可愛らしい花柄の封筒、宛先は書いていない。 中の手紙には…… あの日の約束を思い出して。 ただその一文だけ。 いやいやいや……約束? 誰?誰と何の約束なんだよ!!! これ絶対にストーカーの野郎からだよな。 約束ってことは…… 少なくとも顔見知りであるってことだよな。 話したことがあるやつ…… って誰か分かるわけねぇだろ!!! 「意味分かんねぇ……」 ーーーピーンポーン そう呟いたのとほぼ同時に家のインターホンが鳴る。 ドキッとした。 手紙を見たせいだ…… だけどこんなタイミング良く誰なんだ? 恐る恐るモニターを確認してみると後輩の美香だ。 なんで美香がここに……? 「美香?どうしたんだ、いきなり?」 「先輩…!!お願い……話がしたいの!!中に入れて……」 泣きじゃくっている美香を見て驚く。 他の住人に見られたら何があったのかと白い目で見られるじゃないか…… 俺はすぐに玄関のドアを開けた。 「早く入れ!話は後だ!!!」 「先輩…ありがとうございます……」 俺を見てさらに泣きじゃくる美香を見て、話はすぐに出来ないだろうと思った。 「とりあえず座って!お茶でも飲んで落ち着いて?家にいれば安心だから」 俯いて震えながら頷く美香。 こんなに震えて……何があったんだろう…? 「……先輩。家に入れてくれてありがとうございます」 お茶を用意するためにキッチンに立っていた俺の真後ろから声が聞こえてビクッとする。 足音も……気配すら感じなかったような…… 少し恐怖を感じながらも俺は美香にお茶を差し出し座るように促した。 そのままお互い何も喋らずただただ沈黙が続いた…… そういえば…… なんで美香は俺の家を知ってるんだ? 俺は美香に家を教えていない…… 教えてないのになんで?なんで家に来た? どうやって? ……俺はストーカーに合っている。 ストーカーならこの家を知っていても不思議ではない。 いつもストーカーを撒いてから家に戻っていたが、撒けていなかったとしたら…? 手紙だってそうだ……今日手紙が入っていた。 宛先も書いていない手紙。 その日に俺の家を知らないはずの美香が家にくるのはどういう事だ? 美香が手紙を入れた……犯人? 手紙を確認したであろうタイミングを見てインターホンを鳴らした……? 怖い……… こいつはもしかして……俺のストーカー? 何のために家に入り込んだんだ?どうして…どうして?何のために…? 美香が無言で鞄の中を漁る。 ゴソゴソと漁っている中で見えてしまった…… 中にナイフが入っている。 恐怖で震えが止まらない。 こいつは俺のストーカーでナイフを持っている。 俺を殺そうと……?家に入ってきた? 演技をして嘘をついてまで…… え、なに?俺こんなとこで死ぬのか……? いや、死にたくない。 そうだよ……殺られる前に……殺るしかない。 美香がナイフを取り出そうとした瞬間に俺は部屋に合ったカッターナイフで美香を刺した。 無我夢中で……殺されないために。 恐怖で頭の中がおかしくなりそうだ。 俺は死にたくない……こんなところで!!! ふと気がついたら部屋の中は血まみれ。 美香はナイフを手に持ち倒れている。 あぁ……殺ってしまったんだ。 でも殺らないと俺が殺られるところだった。 これは正当防衛だよな…… そんな事を冷静に考えながら美香の方をもう一度見てみる。 「…………っっ!!!!!」 声にならない声が出た。 俺はなんて事をしてしまったんだ…… 美香が手に持っていたのはナイフではなく、ただのスマホ。 鞄の中を漁ってみたがナイフなどの刃物は入っていない。 どういう事だよ……見間違えで俺は美香を…人を殺してしまったのか? ストーカーだからって殺していいことにはならない。 なんでこんなことに……… 美香のスマホが光る。何かの通知だろう…… 俺は美香のスマホを取り何かストーカーとしての手がかりが残されていないかと確認してみた。 少しでも自分の罪を軽くするために。
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