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はじまりの日【1】
私はいつもより早く起床した。ハンガーにかかる真新しい制服を見てつい頬が緩む。
「よろしくね」
私の名前は小林実弥。今日から東山高校の一年生だ。
「おはよう」
「あれ、珍しい早起きしてる」
「入学式の日に遅刻しようとは思わないよ!」
「はいはい。ご飯食べちゃって」
リビングに行くなり姉の真梨亜にからかわれてしまった。姉と言っても血はつながっていないのだけれど。
食パンをオーブントースターに入れて3分ほど焼く。その間に真梨亜が作ってくれた目玉焼きをお皿にのせた。
「ねえ、ほんとに私入学式行かなくていいの?」
後ろからそう声をかけられる。
「うん。真梨亜だって忙しいでしょ?絶対行かないといけないものじゃないし」
「そうだけどさあ…」
真梨亜の少し不満そうな声が聞こえた。
私のお父さんとお母さんは忙しい。なぜなら、医者と看護師だからだ。仕方のないことだ。
…少し寂しいけれど。
今日も食パンは美味しくてすぐ食べ終わった。歯を磨いて、顔を洗って、髪を梳いて、カッターシャツを羽織った。膝より下のスカートはまだ少し硬い。ネクタイを手に鏡の前に立った。襟元にネクタイのフックを引っ掛ける。
…結ぶやつが良かったなあ…。
ネクタイの次はブレザーだ。紺色のブレザーは私の体にぴったりと合った。最後にいつものように髪を三編みにする。
「今日も琉斗君と行くの?」
「うん、約束したから」
琉斗とは、許嫁だ。同じく医者の子供でお父さん同士が友達だから。でも彼氏とは少し違う。
「行ってきます!」
少し硬いローファーを履いて、私は一歩踏み出した。
琉斗は待ち合わせ場所の公民館の前にいた。私に気付くと軽く手をあげてくれた。
…制服すごい似合ってる!
中学時代は学生服とカッターシャツしか見たことがなかったので、ネクタイとブレザーが何だか新鮮だ。
「琉斗、おはよう」
「おはよう」
「あのね、菜莉が受かってたよ!」
「おー。良かったじゃん」
菜莉とは小学校からの私の親友である。菜莉の受験番号は事前に知っていたのでインターネットでの合格発表の際、確認した。ちなみに、朝の食パンは菜莉の家のパン屋のものだ。
「だよね。菜莉とLINEつなぐんだ~」
この春ついに私はスマホを買ってもらったのだ。琉斗とはもうつないだのだが、菜莉はまだだ。
「理沙さんは?入学式来ないの?」
「あぁ…母さんね。行きたいって言ってたけど仕事行ったよ」
「そっか」
理沙さんとは琉斗のお母さんで内科医だ。親が来ないのが私だけではないことに少し安心した。待ち合わせ場所から高校は近くて意外とすぐ高校についた。
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