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 陸の前まで行くと、俺はしゃがみこんで陸と目線を合わせた。 「……ごめんなさい」  小さな声で、膝に顔を埋めながら陸は呟く。  この小さな体に、どれだけのものを抱えているんだろう。弟が生まれて、母親に構ってもらう時間が減り、父親はこんな態度で。 「俺こそ……いや、パパこそごめん」  俺は陸に向かって頭を下げた。びっくりした陸が顔を上げる。 「パパが大人気なかった。今まで陸と全然話してこなかったから、何話せばいいかわからなくて、あんな態度取って。悪かった」  我ながら、大人らしくない謝罪だと思う。仕事ならもっとスマートに謝罪できるのに。  頭を下げたままの俺の肩を、陸がとんとんと叩く。 「パパ、見て」  顔を上げると、陸が何かを握りしめている。俺の目の前でそっと手を開いた。  手のひらに収まるサイズのメダル。 「たからものばこ、って書いてるところに置いてあったんだ。たぶんこれが『たからもの』だよね」  俺はメダルを手に取った。ちゃちな金メッキのメダル。陸はどんな思いで、この広い迷路を探し回って見つけたんだろう。  俺は陸の頭をがしがし撫でた。痛い痛い、と陸が笑う。 「すごいじゃないか、俺……パパは見つけられなかったぞ」  そう言うと陸は目を輝かせて語り出した。 「あのねっ、これすっごく奥の方にあってね、悪者に追いかけられたりして怖かったけど僕頑張って取ったんだよ」  陸が話すのを聞きながら、目頭が熱くなる。  俺は今までどれだけ彼に向き合っていなかったんだろう。  鏡に映る自分と陸の姿が、幼い頃の俺と父の姿に重なる。父さんも本当は、こんな情景を望んでいたのかもしれない。 「頑張ったな」  もう一度頭を撫でて立ち上がる。 「よし、出口を目指そう」  陸も頷いて立ち上がる。涙で腫れた目を擦り、俺の手を握った。   「ここ出たら、観覧車にでも乗ろうか」 「うん!」  陸が力強く頷き、嬉しそうに俺と繋いだ手を振る。  俺と陸がいくつもの鏡に映る。温かく、湿った手を俺は握り返す。
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