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「どれに乗りたい?」  マップを片手にそう聞くと、陸は黙ってメリーゴーランドを指差した。なんともメルヘンなものに乗りたがるもんだな、と俺は苦笑いする。  一度にたくさんの客が乗れるのか、回転率が速い。すぐに順番が来て、俺は陸を馬に乗せた。その場を離れようとすると、陸の小さな手が俺の服の裾を握る。 「パパは?」  陸は不安げな表情で俺を見つめた。  周りを見ると、たしかに親と乗っている子供も多い。中には子供と一緒にふざけて乗っている父親らしき男性もいる。  だが、俺はあんな風にはなれない。プライドが許さないのだ。こんな可愛くメルヘンな物に男が乗るなんて。    俺は他の家族連れから目を逸らし、陸の頭を撫でた。 「パパは乗らないよ。ほら、外で陸の写真撮ってるから。ママに送る用の」  そう言うと、陸は俯いて小さく頷いた。  それでは始まります、という係員の声に慌てて外に出る。楽しげな音楽と共に、メリーゴーランドはゆっくりと回り始めた。  不安そうな顔をしていたが、始まってしまえば楽しいらしく、陸は俺にピースサインを向ける。正しくは「俺のスマホに」だが。いや、俺のスマホの向こうで写真を見るであろう雪に、かもしれない。  スマホをポケットにしまい、俺は深いため息をつく。まだ今日は始まったばかりだと言うのに。
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