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21.アチラの医者(4)
医者は頭痛げに、こめかみをペンで押しながら
「……すりかえた卵は?」
「そりゃ、ばれないようにコチラに持ってきてからポイしたさ」
胸を張る。
そのポイしたものふたりを目の前にして、よく言うよ。
「……じゃあ、この子たちはその二羽にとりかえられたってこと?そんなことして、だいじょうぶなの?自分の産んだ卵じゃないって気づいたら、あなたたちのヒナ鳥がひどい目に会うんじゃないの?」
佐和子のことばに、しかし医者は
「……それはないですね。このカッコウたちの特殊能力です。彼らに托卵されたものは、どんな種族であれ、ちゃんとそのヒナが巣立つまで世話を見るものなんです」
カッコウ夫婦がドヤ顔をする。
「でも、ぷーすけ・ちくわの産みの親は、とりかえられた子のことが心配……」
少女の問いに答えたのは、そのとりかえられた子だった。
「してませんね。我々を産んだ存在は、我々に対してなんの思いも持っていませんし、今後も持ちません。それは、はっきりと感じ取れます。われわれの親は、拾い親のあなたがただけです」
ぷーすけのはっきりとしたことばに、ちくわもうなずいている。
医者は、ふたりを見て興味ぶかげに
「ああ、『すりこみ』ですか?めずらしいですね、妖魔の類がコチラモノになつくとは……人間なんて、見た瞬間に食い殺されていても不思議ではないのに」
医者にとっては、ぷーすけは妖精じゃなくて妖魔なんだ。
ちょっとしたことばの差だけど、ずいぶん印象が変わってくるぞ。
彼らが生まれながらに争うことを言うと
「——ああ、御位(みくらい)争いですか?そりゃたいへんですね」
まっきぃきぃの髪をしたうさんくさげな男は、ちっとも大変じゃなさそうな口ぶりで
「お気の毒ですが、それについてはわたしにはどうしようもありませんね。******の王子たちが争うのは、本能からくるものですから変えようがありません。その妖魔はわたしたちよりはるかに知性がありますが、とはいえ本能のほうが強いものです」
突き放したように言う。
その見立てに気落ちする少女少年だったが、子たる赤髪の妖精……いや妖魔?は、逆らうようにきっぱりと宣言する。
「わたしはそんなくだらないものに興味はない。母上のおそばで孝行に徹するのが存在意義だ」
その意気あることばに、医者は目を細めて
「ほう、王を目指さない王子ですか?そんな******の個体ははじめてですね。コチラで生まれたから変わったことになったんですかね……うん?というかあなたたち、そちらのお子さんたちと通路(パス)をつなげてますね?」
ぱす?どういうこと?
「目に見えないつながりです……そうか。本来コチラで生きるものではない******が、養分を取るために最初に目に触れた人間と通路をつくったんですね。彼らは、あなたがた拾い親から目に見えない形でエネルギーを供給してもらっているんです。へその緒で母体と繋がっている赤ん坊といっしょですね」
やめてほしい、そんな言い方。妊娠もしたことないのに。
顔をしかめる佐和子の横で
「……おれとちくわのつながり」
なんで直実くん、まんざらでもない顔してるのさ。
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