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35.王子たち(4)
金の王子は闖入者に警戒しつつ
「きさまが『アチラの医者』か?突然現れて『口をはさむ』とは……なにか?おまえが私の相手をするというのか?」
ただすと、
医者は
「わたしが?ご冗談を。あなたがた妖魔の相手をするなんて、アーティファクト持ちの勇者でもないわたしには無理です。わたしは、ただ預かりものを返しに来ただけですよ」
そう言うと、ポケットから取り出した小さな金属瓶を少女に手渡す。
「これは……?」
ふたを開けると、そこにあるのは、今にも消えんばかりにあえかにゆらぐ……しかし佐和子にとっては、なによりも親しい小さな炎だった。
「今の彼に必要なのは、なにより親の息(=活き)ですよ」
医者のことばに
「——きさま、それは!!」
金の王子が触手をふるうが、それよりも速いのは母だった。
(——ぷーすけ!!)
佐和子がその瓶に息をふきこむと、消えかけの埋火(うずみび)が強く熾(おこ)されたように、一瞬にしてまばゆい炎柱が立ち上がり、延びた金属の触手を燃やし切る。
そしてその炎の柱の中から、まるで不死鳥が新しい翼をふるうかのように立ちあらわれたのは、美しき妖精息子だった。
「——母上に手出しするものは、わたしが許さん」
前と変わらぬ親至上主義だった。
そのすがたに
「おのれ!命の一部を外部に保存していたのか!?」
金の王子は歯ぎしりながら毒手を放つが、それらはすべて盛んな火によって燃やしつくされる。
「無駄だ。純粋な力勝負では、きみはわたしに敵わない」
「——ちいっ……うっ!これは?」
不利を悟って地面に溶けこみ逃げようとした金の王子。しかし足元から生えた木の根が絡みついて動くことができない。
「……へっへ。俺のことを忘れてもらっちゃこまるぜ」
そうことばをかけるのは、直実が植えた種から、いつのまにか立派に生え育った若木の枝葉に腰かける……
「ちくわ!」
愛くるしい緑髪の少年だった。
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