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妖精息子2の1
「……直実(なおざね)くん、なにしてるの?」
朝、いつものようにぷーすけとともに登校した佐和子は、自転車置き場から教室に移動の途中、中庭に同級生のすがたをみとめて声をかけた。
同級男子……平井直実は、土いじりの手を休めてふりかえると
「ああ青柳さん、おはよう……なにって、見たらわかるだろう?花壇の手入れだよ」
こたえた。
ブレザーをぬぎ、カッター・シャツの袖をまくっての本格的な作業だ。顔に土がついている。
「いくら花好きだからって、学校のものをかってに……」
学校の設備たる花壇の手入れなど、どう考えても一生徒にゆるされることではないと思うのだが……
「ちゃんと許可もらって、やっているよ」
口数の少ない男子は端的に言うと、また黙って作業を続ける。
そのわきには
「ナオザネ。どうだ、これでいいか?」
肥料袋を抱える妖精……というか妖魔の王子・ちくわのすがたがあった。
「ああ、いい。そこに置いてくれ」
直実はうなずくと、佐和子に向き直って
「……ちくわがここの植木たちになつかれちゃってね。しかたないから、ぼくも関わっている」
木になつかれるとは……ふつうのものならおかしいが、ちくわならなんの不思議もない。なにせ、彼の妖精というか妖魔としての属性は「木」なのだから。植木がなつくのはあたりまえといえばあたりまえだった。
そして、その養い親たる直実も、ほかのことにはともかく、植物に対しては世話焼きな奇特な少年なのだ。
「……もともと、この学園の出入り植木業者とは知り合いなんだけど。業者も忙しいからね。行き届かない細かいところをぼくが少しケアしてるんだ」
それって、なにげにすごいことなんじゃないか。佐和子はたよりないとだけ思っていた同級生男子のことを、また少し見直した。
実際、木や花はきれいになっている。木の王子の力があるとはいえ、ふつうの高校生にできることではないだろう。
「こいつの取り柄は植木の世話だけだからな。そこにおれがいれば、そりゃ完璧な仕事になるさ」
ちくわが自慢げに胸をはると
「……言ってはなんだが、直実少年だけで管理は行き届いているのではないか?きみの力添えは不要なのではないか?下位存在」
ぷーすけがつっこむ。
すると、緑髪の美少年は
「なんだと?植物のことでおれにイチャモンつける気か?ちょっと一度勝ったからってえらそうに言いやがって!この火吹き野郎!」
腕をふると、
赤髪の美青年は指を立て
「母上の前でキーキーさわぐな、やかましい……たきつけにするぞ」
「なにを?このやろう。やってやんぞ!」
けんかになる。まったく、顔を合わせるとこれなんだから。もう王位を争ったりしないのだから、仲良くしてほしい。
直実はなにも言わず作業を続ける。その顔についた土をぬぐってやろうかと、少女がハンカチを取り出しかけたとき
「――あれぇ?佐和子ちゃん。いったいこんなところでなにしてるの?」
きれいな声がかかった。
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