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妖精息子2の4
「……」
あまりの事実に打ちのめされる佐和子に対して、直実は作業を続けたまま黙っている。
そのことが、絵里のことばが戯れではないことを示していた。
衝撃だった。まさかこのふたりが自分の知らないところでそんなに近い仲だったなんて……。
「佐和子ちゃんってば最近、急になおくんと親しくなったよね。文化祭の実行委員をいっしょにやったからってわけでもないよね?なおくんが委員として使えないのは、あたしも把握してたもの。あれじゃ仲良くなれない……なに?やっぱり******を拾ったもの同士だから?情報交換?」
絵里は口早にたずねてきた。
佐和子まわりのふつうの人間は、ぷーすけたち******(人間の言葉にできない種族名)の作用によって、ぷーすけたちになんら違和感を持たないように誘導されている。家族や級友たちは、ぷーすけやちくわたちを、まるで佐和子らが拾い育てている捨て子犬のような感覚で見ているのだ。
彼女らが******らの王位争い……命がけの闘争に巻きこまれたことなど、だれも知らないし、また知っても理解できないようになっている。
そういう意味では絵里の言うとおり、佐和子と直実にしかわからない事情は多く、ふたりがそれぞれの拾い子について定期的に情報交換するのはほんとうだ。前にくらべて、ことばを交わす量は圧倒的に増えている。
佐和子としては、犬を同じ公園で散歩させている飼主同士が親しくなる感じだった。
しかし、そのことがなおくんの幼なじみには不満だったらしい。
「もおっ。あたしのこと、のけものにしなくてもいいじゃない」
美しい頬をふくらかして、直実に文句を言う。
スター女子のそんな表情を、佐和子は見たことがなかった。
直実は絵里の顔をちら見ると
「――おれなんかに関わって、良いことはない」
言い捨てて作業にもどる。
!なに?そのハードボイルド・タッチ!そんなセリフ、かなりの男前にしかゆるされないことばだよ!っていうか、なに?直実くんでも「おれ」とか言うの?
あきれる佐和子を後目に、絵里が
「また、そんなことばっかり言って……」
文句を言おうとしたとき
「――絵里。いったい、なにしてる?」
ちょっとするどい声が、わたり廊下からかかった。
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