妖精息子2の5

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妖精息子2の5

 それは 「あっ、おにいさん」  来島真吾(しんご)……絵里の一学年上の兄にして、生徒会の書記である眉目秀麗な男子生徒のものだった。  彼はすらりとして背が高く、しかも学業優秀・スポーツ万能。絵に書いたような完璧なお兄さんということで(絵里の人気とはまったく関係なく)女子ファンが多い。  そう。タイプこそ違えど、来島兄妹は共に少女漫画に出てくるようなスター生徒なのだ。 d23fc3ca-5671-41bc-a428-c37d196c2420 「やあ青柳さん、おはよう」 「……えっ?あっ。お、おはようございます。来島先輩」  下級生の少女に声をかける真吾に、佐和子は頬を赤らめる。というか 「あたしの名前を知って……?」  真吾とことばをかわすのは、今が初めてだ。どうして? 「それは当然だよ。絵里の友人のことはすべて把握している。いつも妹となかよくしてくれてありがとう。それに、きみは******を連れてきているからね。生徒会としても把握しているよ」  最高にさわやかな笑顔を向けてくる。 (ほんと、なんて王子さまキャラなんだろう)  たしかに異界のホンモノ王子であるぷーすけやちくわらも美しい顔立ちをしているが、その美はこの世ならざるものである。その超然たる美もたしかによいが、来島兄妹の人間らしい美もやはりよい。  そんな王子な真吾さまは、つづけて 「それと、ぼくはきみがそこの直実と親しくしていることになにより驚いているのさ。絵里に聞いたかもしれないけど、そいつはむかしから植物とばかりつきあって、人間とはあまりつきあわないんだ。  最近はそれがひどくなって、幼なじみのぼくらに対してさえ心を開かない」  そんななげきにも、直実はそっけなく 「……そりゃ、きみらとぼくとじゃ住む世界が違うからね」 (そんなタメ口を真吾先輩にたたいているのを聞かれたら、ファンの子にふくろだたきにあうんじゃない?そもそも、幼なじみとはいえ、学校では先輩でしょ)  生徒会長は嘆息して 「……すっかりひねくれたなぁ。じゃあなにか?おまえは『本当に』ぼくらと距離を置く気なんだな?」 「そう言っただろう」 「だそうだ。絵里、こんなやつと関わるのは、もうやめろ」  美しい妹はしかし、つれない幼なじみと兄のあいだに立って 「そんなことないもの。なおくんは、いつでもあたしのことを気にかけてくれる。こないだの文化祭でだって、こっそりあたしの舞台を見に来てくれたんだよ。ちくわくんが教えてくれたもの!」  そのことばに、なおくん……直実は拾い子をにらむ。  緑髪の王子は、上目(うわめ)をきょろつかせてしらっばくれる。   兄は、妹の興奮に鼻白(はなしろ)んで 「直実。おまえってやつはまったく……おれをあんまりこまらせるなよ」  苦笑(にがえ)んだ。 (へえ、こっそり絵里ちゃんの舞台を……あたし知らなかったな)  佐和子はあいだに入ることもできず、三人を見つめた。
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