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妖精息子2の6
学校からの帰り道、佐和子は黙って自転車のペダルを漕いでいる。
ぷーすけは、自転車に並飛行しながら
「……母上、いかがなさいました?今日は学校でも口数が少なくてらっしゃいました」
たずねた。
「なんでもない」
そう言いながら、自分が不機嫌なことには少女本人も気づいていた。
息子は、しばらくそんな母親にだまってついていたが
「……そんなに、あの母上が崇拝する少女と直実のあいだがらが気になりますか?」
小声で問うた。
「そんなの関係ないよ」
佐和子は即答すると、だまって自転車を漕いでいたが……しばらくすると、急に自転車を止めた。
そして息子の顔を見ると
「絵里ちゃんがどんな男子とつきあおうと、あの子があたしの推しであることは変わらないよ!」
つよく宣言した。
「そりゃ、つき合う相手を考えたほうが良いと思うけど!絵里ちゃんなら、ぜったいイケメンと……までは言わなくとも、ちゃんとした男子とつきあってほしいけど! あんな、ちょっと気が良いだけでだらしなくてさえない男子だと、夢は壊れるけど!
……でも、そんなこと言っても幼なじみなら仕方ないでしょう!?自分で選んでなったわけじゃないんだから!ちいさいときに知り合うなんてすべて運なんだから!」
怒鳴るように言う。
それはぷーすけに、というよりまるで自分に言い聞かせているようだった。
妖精息子は、そんな母の顔をすがめると
「ほう。『そっち』のほうですか?わたしはまたてっきり……」
すこしわらうと、つづけて
「そうですね……母上のおっしゃるとおりです。人間がいつ出会うかなどは、すべて運です。しかし、幼少期の関係性がそのまま続いているとなると、それは本人らの意思と言えるのでは?」
「やめて。それだと絵里ちゃんにつきあう相手を選ぶセンスが無いみたいになっちゃう。イメージが壊れる。あの子は気が良いから、むかしからの幼なじみにもやさしいだけ。そうに決まってる」
「……そうですかね?他人の嗜好に、かってな投影をするのはいかがかと思いますよ」
「だまって」
言うと、少女はまた自転車を漕ぎ出した。
そして、並飛行する息子に
「……あなたが今言った『そっち』ってなに?」
たずねると、
美青年は赤髪をなびかせながら
「いえ。母上のご不興が『絵里嬢が直実に親しい』からとは思いませんでした。逆かと思っておりました」
わらいながら返す。
「どういう意味?『直実くんが絵里ちゃんに親しい』……って、いっしょじゃない」
母の不審顔に、
息子は
「……まるでちがう、と思いまして」
にやつく。
「ヘンな子」
母はプイとした。
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