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22.アチラの医者(5)
「——しかし、コチラで生まれたすべての個体があなたたちのように聞き分けの良いものだとは思えませんね。王を目指すものもいるでしょう」
医者のことばに、ぷーすけは
「かかる火の粉があれば蹴散らすのみ。母上は、わたしが守る」
指先に炎をゆらめかせながら言う。
「火属性……たしかに強力そうですが、勝ち残れますかね?」
シビアな医者のことばに
「ムカデの液で炎を消し止められたからと、かるく見たか?そんなチョロ火はわたしの本気の炎ではないぞ」
火の妖魔はそう言うと、机の上に置かれた治療用の銀皿に火をつける。
「やあ、やめてくださいよ」
「こらっ!ぷーすけ、ダメじゃない!よそさまで火遊びなんかしちゃ!火事になったらどうするの!?」
佐和子の当然の叱責にも
「だいじょうぶです。火がついたのはその皿の中だけです……どうですセンセイ?なかなかの火ではないですか」
鼻高く語る。
医者は、くすぶりつづける炎を見て
「もぉ。わたしが医者だからなにもしないと思って……これだから高貴な生まれというのはこまりますよ、わがままで………まったく、今回だけですよ」
にがにがしげに言うと、皿をどけた。
「すいません」
佐和子は、ただただ子どもの不始末に頭をさげるしかない。
「——あなたは気にせずともよいです」
医者は少女になおざりなことばをかけると、鳥夫婦に向かって
「ときにカッコウ。あなたがコチラで捨てた卵は、全部で何個ですか?」
問うた。
「う〜ん、と……4個だな」
雄鳥のことばに
「4体の王子……そしてそのうちふたりの力の属性が『火』と『風』となると、おのずから他のふたりの能力も予想がつきますね」
どういうこと?
「西洋には、万物を四つの属性に分けて考える四元素論というのがあります。それにならったならば、ぷーすけくん・ちくわくんはそれぞれ『火』属性サラマンダ型、『風』属性シルフ型の妖魔ということになります。のこりふたりの能力は『土』属性ノーム型と『水』属性ウンディーネ型と見るべきでしょうね」
「まるっきり、ファンタジーのゲームだな」
直実がつぶやく。
佐和子はそういうのに疎いのでよくわからなかったが、ただ聞くかぎり
「水なんて、火を消しちゃうじゃない。ぷーすけ、苦手じゃないの?」
心配になる。
しかし、自信家の息子は
「これは母上。失礼ながら火が水に弱いとは、はなはだ浅慮ですな。高熱の炎ならば、水ごときあっという間に蒸発させられます。むしろ、土属性のほうが厄介ですかね。土を融かすほうが熱が要ります。とはいえ、火力を上げればなにも問題ありません」
鼻息荒く
「とにかく、あとふたり倒せばよいだけでしょう?さすれば、わたしも憂いなく母上への孝行に専心できるというものです」
高らかにわらった。
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