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31.文化祭(8)
「……ねえ、これ、あんたの学校そばじゃない?」
母に言われてテレビを見ると、ニュースで学園そばの道路が映っていた。
なんでも、つい先ほど交通死亡事故があったらしい。
トラックが(あやまって)横転して壁に突っこんだが、そのとき、むごいことに運転手の胸部をガードレールの破片(らしきもの)が貫いたとかで即死だったそうだ。
「まあ…おそろしいわねぇ。これ、通学路でしょ。あんたもほんとうに自転車の運転だけは気を付けてね」
母の注意のことばを、少女はうわの空で聞いていた。
(……金の王子の仕業だ!)
直感した。
(アチラにもどる前に自分の親を殺したんだ。なんてひどいやつ。親に手を出すなんて、ぷーすけには考えられない……)
しかし、それを殺人と見るのはあくまでアチラを知ったものののとらえ方だ。コチラの一般人にとっては、よくある交通事故の一つでしかない。
さっきの学校裏庭での戦いあとが、ちょっとしたゴミのぼやでかたづいてしまったのと同じだ。ただの事故で、自分にはなんの関係もない……。
佐和子は風呂に入ると、さっぱりとしたようすでベッドに腰かけた。
部屋の様子は……ぷーすけを拾う前となにも変わらない。枕元に小さなガラス瓶が置かれていることだけはちょっと違うが、それももはや光っていない。
ぷーすけが点した炎は消えていた。
(……あたしには、なにも残らなかったな)
直実は、ちくわのなごりの木の実を持ち帰った。しかし、少女とぷーすけ……あの自分の子どもを名乗る妖精とのつながりはなくなった。
(なにものこらない?……もしかして、それってよいことじゃない?)
そもそも「あれ」は人間じゃない……というか、この世の生き物ですらない。
あたしが自分から拾ったわけじゃないし。あれが勝手に付いてきただけだ。「お母さん」だなんて、人聞きの悪いこと言って……。
いなくなって、せいせいした。これで明日からもとどおりの暮らしができる……
……って、なんで今あたしは泣いているのだろう?
……ああ、これはあれだな。名前なんてつけたから、愛着がすこし湧いちゃっただけだ。
(明日になれば、忘れられる……)
そう自分に言い聞かせてベッドに横たわった少女は、しかし震えていた。
忘れられるはずがなかった!
あの子……ぷーすけが、もうこの世にいないだなんて!
どこかに行ってしまって、もう二度と会えなくなることがあるのは、想像できる……それはいい。
でも、もうあの子がこの世に存在していない、生きていないだなんて!
そんなの、耐えきれなくつらい!
これが、こどもをなくした親の気持ちというものなのだろうか?
佐和子は一晩中、布団の中でえづくように泣き続けた。
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