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37.王子たち(6)
そんな父子、母子の再会のわきで
「——あらあら、これはたいへんだ」
火球の圧縮跡から、ぼろぼろの金属片を拾い上げるのは、アチラの医者だった。
「それにしても『金』ですか……あなたがたが四元素型じゃなくて五行型だったとは、わたしも見誤りましたね。こないだ五行の精を診察したばかりなのに気づかなかった。まだまだです」
その様子に、ぷーすけがするどく
「医者。それをどうする気ですか?」
問うと、
金髪メガネは
「えっ?そりゃ治療しますよ。それがわたしの仕事です」
さも当然そうに言った。
「……敵であった、それの?そんなことをおれたちが許すと思うか?」
ちくわのきびしいことばにも
「ゆるさないと言われても、こまりますね……わたしに手を出しますか?」
ひるまず、逆に問うた。
意外とこの医者は図太いらしい。気のたった王子ふたりに対して、あえてゆったりとした口調でアゴをかくと
「……心配なさらずとも、このものは治療したところで、あなたがたのようにもとどおりに復活することはありません。ここまでこっぴどくやられてしまってはね。せいぜい、知性のない流体状の生命体になるぐらいでしょう。
名づけるとしたら、そうですねぇ……『オオヨダレクリ』ですか?すれちがったときに『いいお日和でヤスね』と挨拶するぐらいの無害なものになります」
「……それならいいだろう」
奇妙な手打ちが成立した。
佐和子には、そんな金の王子の今後より気になることがあった。
「なんで、ぷーすけは復活できたの?あたしの部屋に置いていた火は消えたのに」
問うと、
息子は
「あの火は『仮りそめ』と申しましたでしょう。正直、母上の手元にわたしの分霊(わけたま)を置いても、敵に襲われる危険があります。それよりも、この街で一番安全だと言われているそこの医者の診療所に預けたほうがよいと考えました」
しゃあしゃあと答える。
医者は
「そこはあなたがお上手でしたね、火の王子。うまいこと皿の上に置いていった。わたしは医者ですからね、命の火を消すわけにもいかない。預かっておく羽目になりました。
とはいえ、こんなことはこれっきりにしてもらいたいですね。ウチの診療所は命をバックアップするための保管庫(ストレージ)ではありません。そもそも、わたしのところがこの街で一番安全だなんてガセ情報ですよ。時おり困った訪問者もいますからね、けっこう荒らされます……。
とにかく、もうあなたの分霊は預かりませんよ。どうぞ今後は、自分でいのちを大事になさってください」
言い置くと、診療カバンをぶらぶらさせながら帰っていった。
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