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38.王子たち(7)
あとに残されたのは少女少年、そしてその拾い子たちだ。
「……これから、あなたたちどうなるの?」
佐和子の問いに、
孝心あつき息子は
「どうもこうもありません。じゃまものは排除されました。
さあ!これからわたしの母上に尽くす日々が始まるのです!」
高らかに宣言する。
「……やめてよ」
頭を抱える佐和子のわきで、
直実が
「とにかく、もう終わりだろ?王になるのは、アチラにいる王子に任せといたらいい」
言うと
「そのとおり。くだらぬ些事(さじ)にわたしたちを巻き込もうとするのが間違いでした」
ぷーすけは大きくうなずく。
「……じゃあ、もうこれで解散ということでいい?」
少女の問いに
「ああ。今日はどうもありがとう。青柳さん、それにぷーすけ。ちくわが世話になった」
男子同級生が深々と礼すると、
その胸に抱きよせられた緑髪の少年は不服げに
「——頭なんか下げるな、ナオザネ。オレだって活躍しただろ?」
「……ああ、そうだね。きみのおかげでぼくらも助かった」
父親は息子を大事そうになでると
「だいじょうぶか?体の痛いところはないか?」
「うるせぇ。だいじょうぶだよ」
「ほんとうか?おまえは強がりばっかり言うからなぁ、心配だよ……じゃあ青柳さん。明日また学校で会おう。バイバイ」
「バイバイ」
「……」
ちくわを大事そうに抱えながら去っていく直実のすがたを見て、赤髪の息子はあからさまにうらやましそうだ。
そのあまりのしょんぼりに、佐和子は
「——はい」
手をさしだした。
「——?」
「手ぐらいにぎってあげる。いっしょに帰りましょう」
「————!!!」
「……ただし駐輪場までよ。自転車に乗ってそんなことしたら危ないから」
「は、はいっ!!」
少女はそのとき、自分の拾い子が喜ぶと耳の穴から火を吹くことを知った。
第一部おしまい
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