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「可奈ちゃん、今日は休みだって」
「そうですか」
シェフ以外の調理師が、客が食事をしているホールに出てくることはない。それは知っていたが、もしも木崎の顔を見るために厨房を覗くのなら、そこには可奈がいる可能性が高い。木崎に会えればそれでいいのだから、そこに誰がいようがべつに問題はないのだが、やはり気になる。
可奈が市川に『絶交宣言』をしたことは、聖子ももちろん承知している。だから昨日、待ち合わせの確認のついでに、「可奈ちゃんもいるのかな」と言ってみた。「いたって、いいじゃん」という返事だったが、木崎に確認してくれたのだろう。市川としては、できればまだ顔を合わせたくない。
「今日、竜は、また啓子さんですか」
「うちで遊んでる。例の如く、西澤もついてきた。今日にしたのは、実はあのふたりの都合がよかったからでもあるんだよね」
聖子が夜に出かけなければならなくなった時は、いつも聖子と同じ研究所に勤める啓子と、彼女と同居するパートナーの西澤が竜の面倒を見る。竜にとっては今や彼らも『友だち認定』だ。
竜の話などをしながら、車は川沿いを登っていった。
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