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「なんか……、ようやく味がわかってきたような」
「今までのはなんだったんだ。木崎が怒るよ。もうあんたの胃袋に入っちまった野菜のどれかを刻んだんだろうから」
「名前、書いといてくれればいいのに。ヨギさんは前にも来たことあるんですか、ここ」
「うん、何回かね。会社の大きな契約のあとで、取引先のおエラいさんたちとの会食につき合ったこともあるし、木崎とも来た。それはランチだったけど」
「竜も?」
「いやいや、ご冗談を。どこかの王国の皇太子でもなけりゃ、5歳でフレンチは無理でしょ。ファミレスでもじっと座ってないのに。ああ、その時に森元さんには挨拶したよ」
ホームページで見た、どことなく熊を思い起こさせる森元のコックコート姿を思い出しながら、極上の肉を堪能した。
デザートのワゴンがやってきた。
色とりどりの花畑のごとくフルーツで飾られたタルト。ツンと澄ました貴婦人を思わせるダークなチョコレート。カラメルの焼き色がギャルっぽいブリュレ。千利休が泣いて喜びそうな抹茶のムースまで。全部で8種類ほどもあるなかから三つを選べという無理難題をふっかけられた。しかも自家製アイスクリームまであるという。
突然、聖子が声をあげて笑いだし、あわてて口を押さえた。
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