83人が本棚に入れています
本棚に追加
「おっと……。ねえちょっとお、市川くん、目がギラギラして、アブナイ人になってるって」
「え……、ああ……。消去法でいこうにも、消去できるものがなくて」
ギャルソンがにっこり微笑み、「チョコレートはお好きですか」と訊く。
「あ、はい、大好きです」
では、と、チョコレートケーキにフランボワーズのチーズケーキ、そしてヴァニラアイスを添えるといいのではないかと勧めてくれた。
市川は言いなりになった。
そして、チーズケーキに悶絶した。
「ヨギさん……、これ、このケーキ、俺がこれまで食べたなかで、いっちばんおいしいです。人生最高のケーキです。この……、このラズベリーの酸味……。チーズケーキと、合わないようで、すごく合ってる……。絶妙だあ……。ああ、いいなあ。ほんとにいいなあ。こんなの作れたら、いいなあ……。ああ……、羨ましい……」
「パティシエさんも本望だわ」
小さくうなずきながら、なるべく小さなひと口で少しずつ食べたが、それもいつかは終わりが来る。
コーヒーを飲んでひと息ついていると、聖子が静かに口を開いた。
「今日はね、市川くん、あんたにお詫びしたいことがあって、誘ったんだ。あ、もちろんこんな機会でもないと、ここでコースを楽しむなんてできないとも思ったし」
「お詫び……」と、カップの向こうに聖子を盗み見た。
「そう。お詫びは、ふたつ。ひとつはこの前のバイトのこと。爆笑してしまって、申しわけなかったな、と」
最初のコメントを投稿しよう!