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「ヨギさん……」
「ん、なんだ」
「その……、結婚したことが迷惑って、それって……、相手がマスターだから、ですか」
「さあ……、どうだろう。あんたにもそのうちわかるようになるって」
市川はその時、大学でのある元同級生を思い出していた。1、2年生の時に履修している授業が重なることが多くて言葉を交わすようになったその女子学生は、とにかく成績優秀。高校時代の模試でも常に東京の国立大学の合格Aランクを取っていたらしく、教師からも、もっと上を目指せと何度も言われたという噂だった。それが地方の地味な県立大学を選んだ理由は、絶対に浪人したくなかったから。浪人したくない理由は、『女の子』が浪人なんて汚点でしかないから。
大学に入ってからも成績は群を抜いていた。どの課目でも A か A プラス以外はもらったことがないという。そんな彼女は学校へ来るのにも毎日しっかりメイクを施し、ファッションに金を費やし、月に2、3回は合コンに繰り出していた。当面の目標は、卒業までに「ハイスペックのエリートをゲットする」こと。
まわりの男子学生は「いいよなあ、女は」と口をそろえて言っていた。いいこと、だったのだろうか。
「たぶん……、今でもわかってると思います。でも、ちゃんと考えたことがない、ってだけで……」
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