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「そうか……。『やればできる子』なんて言われて、そこから逃げた彼女を、わたしは笑いものにすべきじゃなかった。わたしは卑怯だったな、と思った」
「そんな……。ヨギさんは卑怯なんかじゃないです」
「ありがとう。でも人間、反省することは大事だぞ。でさ、ふたつめのお詫びなんだけど……」
そう言って、聖子は水をひと口含んだ。「1週間ほど前、可奈ちゃんから電話があった」
顔をあげて聖子を見た。どう反応すればいいのかわからない。「市川くんのことで、って」
「え、え、ヨギさんに、ですか。マスターでなく」
「そう、わたしに。だからわたしも戸惑った。おそらく、想像だけど、女同士のほうが話しやすかったってことなのかな」
まさか不倫関係のことを相談したのか。そんな必要もないのに、なぜ。
「なんて……」
聖子は言いにくそうに目を逸らせ、テーブルの隅をぼんやりと見遣った。
「市川くんを泣かせてしまった……」
目を伏せた。ますます何を言えばいいのかわからない。
沈黙が続いた。
「すみません」
とりあえず何か言葉を発さなければと、咄嗟に口を突いて出た。
「あんたが謝ることじゃない。わたしが謝るつもりなんだから。可奈ちゃん、悩んだんだと思う。2週間くらい前のことって言ってたから。電話では、あまり詳しい話はしたくないけど、でも、市川くんを深く傷つけたのはわかるって。不用意なことを言ってしまったと思う。どうすればいいのかわからない……」
「いや……、それは……」
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