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「だから、何を言ったのか、って訊いた。そしたら、コンプレックスのカケラもないような顔して、って……」
そうか、可奈もあのひと言が毒矢になっていたことはわかっていたのか。「あっちゃー、だよね。知らないまま、どまんなかを射抜いちゃった」
「ヨギさんは、なんて……」
「可奈ちゃんが謝りたいのなら、橋渡しはする。だけど、わたしを通して謝罪を伝えてくれっていうのなら、それは断る。謝罪は直接しなきゃ意味がない」
「ですよね……」
「可奈ちゃんから連絡は?」
市川が小刻みに首を左右に振った。
「でさ、その時に、余計なお世話かと思ったけど、ちょっと説教していいかな、って。人間、外っかわ見てるだけじゃわかんないもんなんだよ、ってね。誰にだってコンプレックスのひとつやふたつ、あって当たり前でしょって。なんかさあ……、あんたのことなのに、わたしが口惜しくなっちゃってさ。あんたの苦労が踏みにじられたみたいな気分で……」
「ほんと……、すみません」
「だからあ、あんたが謝ることないんだって。でさ、その時にね、可奈ちゃんが、市川くんのコンプレックスって、ひょっとしたらお母さんに関係してますか、って」
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