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そしてあの日、可奈も調理の手助けをするために『フーガ』にいた。ずっとその一部始終を見ていた。
「そっか……。そうですよね。可奈ちゃん、いたんだ……」
「うん……。だからね、そうだよ、って……。ごめんよ。なんかさあ、いきなりすんごい腹立ってきちゃってさ。まあね、もとからあんまり気の長いほうじゃないんだけど……。あれだね、竜がいじめられた、なんて聞いたら、きっとこんな気持ちになるんだろうな、って、あとから思った。もちろん、具体的に話したわけじゃない。だけど、あんたのコンプレックスの原因が母親にあるってことは、肯定しちゃった。ごめん」
聖子は膝に手を置いて、小さく頭を下げた。
「いやいや……、ヨギさん、いいですって。そんなのぜんぜん問題ないですよ。だってだって、あの試食会の時に店にいた人なら、誰だってわかりますよ。俺の母親がどんだけヤバいやつで、どんだけ歪んでるか」
「そうだよね……。歪んだ溺愛ぶりだもんね」
「それに、これは俺と可奈ちゃんの……」
その時、テーブルの上に影が落ち、大きな胸板が、ぬっ、と視界に乱入してきた。
「いかがでした、ヨギさん、市川くん」
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