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ホームページの写真よりもさらに丸い森元が、にっこり笑って立っていた。やっぱりああいうのには修正が入るもんなんだな、と市川は熊の冬眠のビフォーアフターを思い浮かべながら、分厚い胸板の上の笑顔を見あげた。
「あ、森元さん」と、立ちあがりかけた聖子を、森元が「そのまま、そのまま」と押し留めた。
「お世話になっちゃって」
「いやいや、こちらこそ。ザキさんのおかげでうちの子たちがちゃんと夏休みを取れるようになったんです。本当にありがたいんですよ。このままフレンチに戻って……、とはいかないだろうなあ」
「まあ、それは無理でしょうね」
「店、つぶしたら、いつでも引き受けますから」
「それを聞いて安心」
「おっと、キミが市川くんか。噂に違わずイケメンだなあ。羨ましい。わたしも何度か『フーガ』へはお邪魔したことがあるんだけど、キミは帰っちゃったあとだったんだよね。ほら、たいていうちを閉めてから行くから、夜中でね。ザキさんに延長営業だって文句ばっかり言われてさ。酒がまずくなるって、こっちも文句ばっかり。あ、マネージャーに言っておくから、チェックしたら裏へ、ね」
ろくに料理の感想も聞かず、言いたいことだけを言ってさっさと別のテーブルへと移動していった。
市川と聖子は顔を見合わせ、小さく噴き出した。
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