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「なんの、って、今、ヨギさんが言ったじゃないですか、好きならちゃんと言えって」
「えっと、あんたの『好き』は、それって、ひょっとして……」
「え、ラズベリーのチーズケーキじゃないんですか。あ、フランボワーズか」
やっだあ、と叫ぶと、聖子がその場にしゃがみ込んだ。驚いて近づくと、顔を覆ってくつくつ笑っている。
「もうー、いやだあ、なにそれえー」
「いや、なにそれって言われても……。絶品だったし、俺の人生最高のケーキでしたもん。え……、あ、あ、ああ、ヨギさん、ヨギさんはなんか違うものを……って、あれ? あれ、あれ、ひょっとして、可奈ちゃん……?」
「そうよー」と、立ちあがる。「市川くん、可奈ちゃんのことが好きなのかと思ってさ」
「え……と、それは、女性として、ってこと……」
「そうに決まってんじゃん。もうー、会いたくないって言われてんのに会ったって言うし、泣かせたとか聞いちゃうし、もうこれはわたしがひと肌脱がなきゃ、なんて考えて……。あー、なんかわたし、空まわり? もう、やだあ」
「あ……、あの、可奈ちゃんのことは尊敬してます。しゃべってても退屈しないし、いろいろと親身になって教えてくれたし。でも、あの……、実は、これにはちょっと事情が……」
「ちょい待ち。蚊がいる。とりあえず車に乗ろう。車のなかで聞く」
パタパタと足踏みをして、残りの坂道をずんずん登っていく。ついさっきまでの珍しく女の子っぽい雰囲気は雲散霧消。
大きなため息をついて、市川は聖子のあとを追った。
車に乗り、エンジンをかけてエアコンをオンにする。
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