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1. 松浦 可奈(まつうら かな)
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『ヨギさんに似合いそうな柄だ』
膝下丈のギャザースカートの裾がちらと目の端に入った瞬間、市川彬良はそう思った。
ベージュに近いアイボリーの重みのある麻生地に、極太のペンキの刷毛で、大輪の花らしきものを深いオレンジで、葉と茎らしきものをやはり深い緑で無造作に描きなぐったような模様。毛先のばらけた筆に、墨をたっぷり含ませないまま勢いよく書いた前衛書家の作品みたいに、あちこちで交錯する斜めの線には隙間が目立つ。
その大胆な図柄に市川は、今は休業中のバイト先である『バー・フーガ』改め『カフェ・フーガ』の店主、木崎惣治郎と今年1月初頭にめでたく夫婦となった『ヨギさん』こと、旧姓八木聖子のくっきりした目鼻立ちを連想した。
『でもヨギさんは、これは着ないな』
グリーンやピンクなどの派手な色合いのものでも無地が多く、柄物を着ている印象はあまりない。
ほどけた靴紐を結び直すためにかけていた足を、階段の3段めから反動をつけて降ろした。
新幹線や飛行機を使わずとも東京で日帰り仕事ができる人口40万弱の地方都市の、主要駅から少し郊外に出た地区にある小さな古いビル。なんとなく現在建て替え工事中の『フーガ』が入っていた『ダイアナ・ビル』を思い出させる。道路に面して上階への階段があるところも似ている。
そんなことを考えていたら、2階の店舗のドアに取りつけてあるらしいカウベルの音に続いて挨拶を交わす声がして、視界の隅にあったスカートがふわりと動いた。
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