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好きです
「岳人くん、あなたおばあちゃん子だったから、年寄りに優しいから、身寄りのないこのおばあちゃんが可哀相で、放っておけなくて、それでここへ」
「桃枝さん! 違う、そんなんやないっ。可哀相だなんてそんな気持ちからやない」
ぼくは大きな声で彼女の言葉をさえぎった。
ぼくは、
ぼくは……、
「ぼくは桃枝さんが好きです。祖母のことは好きやったけど、あなたに対する気持ちはそれとはぜんぜん違う。サンシンロードで初めて見たときなぜか一目で惹き付けられて、知れば知るほどあなたが好きになっていったんです」
「岳人くん」
「本当だよ。ぼくはいままでこんなふうに心を惹かれた女の人はいない。桃枝さんは、ぼくが初めて好きになった女の人なんや」
「岳ちゃん……。ごめんねあなたにそんな思いを抱かせてしまって」
「桃枝さんのせいやない。ぼくが勝手に好きになったんやから」
「わたしが悪かったわ。わたし、七十五にもなるおばあちゃんよ、だからバカなこと考えないで。さっきいったことは忘れなさい」
「桃枝さん! 忘れなさいやなんて、いわんといてください。歳は関係ない。好きになってしまったんや。あかん? なんで?」
彼女は黙って庭に目をやっていたが、ぼくに背を向けて掃き出し窓から庭におりた。
カラカラ。庭下駄が乾いた音をたてる。
「花桃の実、こんなに落ちちゃった。花桃の実は食べられないまま落ちるのよねえ」
ぼくは絵を描く気もなくして下駄の音を聞いていた。
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