森の小径

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森の小径

 二日間は気が進まず、三日目はバイトが休めず、四日目に神前の家に行った。白川さんはなにごともなかったようにぼくを迎え入れて洋間の椅子に腰かけた。絵は日を置いて見てみるとあちこち納得がいかず、なかなか筆をおくことができなかった。 「休みましょ」  白川さんがお茶を入れ、二人でお菓子をつまみ、いつものように話をした。  休憩のあと「岳人くん、森の小径を歩いてみようか」と彼女は先に立って庭におりた。 「桃枝さん、歩ける?」 「森の入り口までならこの足でも五分ほどよ、歩けるわよ」  流れに沿った小径はゆるいカーブを描き林から森へ続いていた。道端にはピンクや黄色の小花が咲いている。 「これは野の花?」 「ピンク色のは赤花夕化粧(あかばなゆうげしょう)っていうの。ベニバナだったかな? 忘れちゃった。帰化植物らしいけど繁殖力旺盛でどこにでもあるわ。雑草といえばそうなんだけど、可愛いから抜かないの」  薄黄色の花を折り取って「こっちは山苦菜(やまにがな)。菜のつく草は食べられるっていうけど、わたしは食べたことない」と笑って花を揺らした。頼りなげな細い茎は白川さんの首のようだ。 「詳しいんやなあ。桃枝さんはなんでも知ってるね」 「そんなことないわよ。花が好きだからよ。自然の花が大好きなの」 「カスミソウとスイートピーは一生忘れないな」 「そう? あれは栽培された花だけど、一つでも覚えてくれたら嬉しいわ」
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