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「すごいたくさん買ったね」
さり気なく柊さんは、私が購入したお土産の紙袋を持ってくれた。
「あ、ありがとうございます。渡したい人がたくさんいるので」
一期一会(Barの方)のマスターには、熊の焼き印がついたお煎餅を。
花瓶をくれたおばあさんには、熊の焼き印がついたぬれ煎餅を。
一期一会(美容院の方)のオーナーさんには、娘さん向けの柔らかい素材のクマのぬいぐるみと、奥さんにはマドレーヌを。
そして、あの日の夜中に毛布をくれたカップルには、クマの刺繍がついた色違いのフェイスタオルを買った。
もう一度会える確証がないのに買えたのは、柊さんのおかげだ。
彼が再び会わせてくれるような気がしてならないから。
「お土産渡したい相手がたくさんいるって、幸せなことですね」
それもこれも、彼のおかげだ。
お土産を渡したいほど大切な人達に出会わせてくれた柊さんに、実は一番たくさんのお菓子やマグカップなどを買ったのはまだ内緒。
「柊さん。このお盆休み、ずっと付き合ってくれてありがとうございました」
ホテルへ向かう坂道の途中で、改めてお礼を伝えた。
柊さんは相変わらずに飄々として、「こちらこそ」と笑う。
その笑顔は初日と同じはずなのに、凛々しく変化しているように見えるは気のせいかな?
「この四日間でわかったんですけど、柊さんと一緒に居ると、……なんていうか、素敵な人と出会いやすくなるんです。柊さんには、人を引き寄せる引力があるっていうか」
「そうかな?」
「そうですよ」
ポツリとポツリと雨が降り始めて、私達はそれぞれのリュックから折り畳み傘を取り出した。
「おばあさんの心の中で殴られなくてすみましたね」
私の言葉に彼がふっと笑う。
また話を元に戻した。
「素敵な人が集まってくるってことは、つまり柊さんが素敵な人だからです。優しくて、面白くて、あったかい人だからなんです。そんな柊さんに出会えて良かった」
ホテルまでの道のりはまだ長い。
だけど私は、これの倍あっても全然へっちゃらだな、と余裕の笑みを見せる。
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