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「その法則が本当だとしたらさ、」
柊さんは言った。
「七子さんも、俺に引き寄せられた素敵な人ってことになるよね」
途端に目頭が熱くなって、私は泣くのを我慢した。
「わ、たしは、……例外です」
「そんなことないよ」
「……だって、元カレが嫌な女だって」
「そいつが馬鹿で狡いだけだよ」
「……すぐに物に当たるよ?」
「でもきっと、柔らかい素材の物とか紙とか、ダメージ最小限のものでしょ?」
「ケチなところもある」
「ケチじゃなくて、慎ましいってことだよ」
「気をつけててもたまに足クサイし」
「公園で寝てた時さ、靴脱げちゃった拍子に意図せず嗅いじゃったけど、言うほど臭くなかったよ?なんていうか、開店準備中のパン屋みたいな匂い」
これはもう、全て論破される。
きっとどんなに私の嫌なところを言い続けても、彼は全て長所に変えてしまうと思って、涙が止まらなかった。
「一緒にどこか行くと疲れるって」
「むしろめちゃくちゃ楽しいんだけど。マイナスイオン出てるんだけど」
「食べ方がなんか品がないって」
「リスみたいで超可愛いんだけど」
嬉しくて嬉しくて、必死になって切り返してくれる柊さんが途中から可笑しくなってきて、泣きながら笑った。
ひとしきり泣いて笑って、緩い坂を上り終えた頃。
反対方向から歩いてくる、同世代のカップルが傘を差さず身を寄せ合って歩いているのが目に入った。
「……柊さん、お願いがあるんですけど。そっちの傘に私も入れてくれませんか?」
柊さんはにっこりと笑う。
「……喜んで」
私は幸福な気持ちで柊さんの藍色の傘の中に入り、二人でカップルの方に近づいた。
「……あの、よかったらこの傘貰ってくれませんか?私、どうしても彼と相合い傘したいんで」
私の赤のチェックの傘が、カップルの頭上を彩った。
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