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お盆休み、彼が別れをきりだした。
「……ごめん。好きな人ができた」
しばらく何を言っているのか理解できなかった。
お盆休み初日。これからあと七日も休みがある、終盤の二日間には旅行も控えていた最高のテンションの時だ。
「なに?」
間抜けな声で聞き返す私に、彼はため息をついた。
もう、ちっとも私のことを好きではない目をしていた。
「だから、別れてって言ってんの」
頭が混乱していたけど、感覚的にはもう充分理解していた。
だけど頭は混乱しているから、それを認めたくはない。
「なに言ってんの?そんな急に」
二人で計画を立てた伊豆高原の旅行は?
テディベアがたくさんいる博物館に行くの、楽しみにしてたのに。
「もう疲れたんだよ。お前といるの」
彼は堰を切ったようにして、かなり必死に、いかに私が疲れる女だったのかを至極丁寧に語り始めた。
あまりにも一生懸命なのに腹が立って、私はそばにあったクッションを思いきり投げる。
クッションは彼を横切り、思いの外遠くへ、キッチンの方まで飛んでいった。
「そういう物に当たるとことか、すっげー嫌だった」
彼はそれだけ言い残すと、まるで解放されたかのようにのびのびと部屋を出て行く。
まるで背中に羽根が生えたみたい。
みるみる歪んでいく彼の後ろ姿を見つめ、とうとう私は縋る言葉すら伝えられないのだった。
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