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144 意外に人気者だった
寮から学院、そして教室にたどり着くまで、その混乱はそこそこで見られた。みな舞美に声をかけようとして乱闘になっていった。
「い、いったい何なの?」
荒い息をつきながらあたしが言うと、シャロネットは呆れたように言った。
「あんたまだわからないの?あいつらあんたをダンスパーティーに誘おうとしてんのよ。こいつはうっかりした。あんた意外に人気あったのよ。このクラスで最初変に絡まれたから、そういうのわかんなかっただけ」
意外ってなんだ。だが、その絡まれたこのクラスの男子が寄ってきた。
「さがれっ!舞美に一歩でも近づいたら殺すわよ」
「ひいいっ」
「ちょ、ちょっと待てよ、シャロネット。横暴はよせ」
「そうだ。舞美さまと話をするだけだ」
「やかましい!きさまらの魂胆はわかっている」
「な、なんだ偉そうに」
「そうだそうだ」
「そうだって…、お前隣のクラスじゃねえか!なに勝手に人のクラス入ってんだよ」
「うるせえ。こうでもしなきゃ舞美さまと…」
「うるさい!消えろ」
収拾がつかない。そうか、ステファニーさんが言ってた混乱って、これか。なんで?
「舞美さま、こちらへ」
「あ、ドルメア」
「お早く」
ドルメアは教室の隅にある教材準備室にあたしをかくまおうとしてくれたのだ。
「ありがとう、ドルメア。あたしなにがなんだか」
「舞美さま、お聞きください。いいですか、あなたはいまこの学院で最もあこがれの存在となったのです」
「はあ?」
「それは美しさと最高権力を兼ね備えている至高とも呼べるお立場です。お判りになりませんか?」
「美しさはどうかな…」
「もうすでにあなたはこのクラスのトップリーダー、いいえ、全校のトップリーダーとなりつつあります。しかるに、わたしたちとしてはその友人ともなれば、それはもう怖いものなし。ダンスパーティーにエスコートできれば更なるステータスとなるのですよ。いわば虎の威を借りるといった…」
「んな勝手な」
自虐よそれ。残念な子ね、ドルメア。
「いいですか。ですから慎重に選ばなくてはなりません。そしてそれは男と決まっているわけではありません。女でもいいのです」
「な、なに言ってるの?」
「あたしを見てください」
言っている意味が分からない。ドルメアは必死に何か訴えている。服装?あ、そういえばスカートはいている?
「スカート?」
「そうです。こうしてファッションさえ共有できるのです。ですからダンスパーティーのエスコート役にはぜひあたし」
「なにやってるのかと思ったらドルメア!あんた卑怯じゃないの!」
教材準備室の戸口にズラッと女子生徒が並んでいた。
「卑怯って何よ!あたしはただ舞美さまをお守りして」
言い訳の前にドルメア、あんた舌打ちしたでしょ。
「嘘つくんじゃないわよ!あんた自分売り込んでたじゃないの」
「何を証拠に」
「魔法聴覚はあたしの得意技って知ってるでしょ、ドルメア。蜘蛛の巣糸を張りめぐらすがごとくこの教室中に見えない細い糸がびっしりと張ってあるのよ。あんたの話なんか筒抜けよ」
「くっそう、ミシスめ。あたしの防聴結界を破るなんて。たとえどんな魔法だろうとジャミングできる自信があったのに。それこそ雷の音もかき消せるくらいに最大能力値を出してたのよ!」
怖い、あんたら怖い!無意味な魔法の使い方がひたすら怖い。
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