167人が本棚に入れています
本棚に追加
145 学生総括会
「あー席につけ、バカども!まったくいい加減にしないと怒るぞ!」
エミリーナ先生が呆れた顔をして教壇に立っていた。
「ひーーーっ」
女子生徒たちは慌てて席に走って行った。ドルメアも渋々っていう感じで席についた。
「まったくもう、おまえたちときたら」
「そうは言いますが先生、あたしたち下級貴族や平民はこのチャンスをものにしないと這い上がれないのですよ!家じゃ明日のパンの心配をしなきゃならない親や兄弟がいて、それでも荒れた土地にしがみついて。確かに今の王さまになって以前よりは見違えるほど暮らしは楽になった。でもまたいつ気候がおかしくなるかわからない。今日はよくても明日は?明日はよくても明後日は?そんなのを永遠と繰り返していくなんて考えただけで…」
誰かが叫ぶように言った。現実はかなり厳しいらしい。言い方が切実だ。
「おまえたちの言っていることも思っていることもわかるが、あたしは国王から直接その妹である舞美を託された。だから舞美に不快な思いをさせるわけにはいかないのだ」
「それは…」
みなうなだれてしまった。あたしはこの国の王族として、なにか恥ずかしい気持ちにさせられた。みなが満足に暮らしていけない国に、あたしは恥じたのだ。
「とにかく自重しろ。いまはそれだけしか言えん。だがいまに国王が何とかされる。国王はそうした方だ」
「はい」
兄さんは実際、よくやっている。しかしやっぱりすべての国民を満足させるのは難しいと思う。あたしがそれを手伝えればいいのに。いまのあたしには力不足だ。
重い気持ちが続いた。午前中はそれで費やしてしまった。シャロネットがずっと励ましてくれていたのがありがたかった。午前の授業が終わって、ステファニーさんのところに行こうとしていると、講義室の入り口であたしを呼ぶ声がした。
「げっ、学生総括騎士団だ」
「なんであいつらが」
そう囁く声がそこここから聞こえた。
「舞美さま、お迎えにあがりました」
見ると、制服の上に軽鎧と金属盾を装備した男の子たちが数名立っていた。
「あの、舞美ですが、なにか?」
「われわれは学生総括会の直属で総括騎士団というものです。総括会室までお供いたします」
「それって…」
「会長の命令です」
ステファニーさんがよこしたんだ。護衛付きなんて恥ずかしいけど、いまあたしが一人歩いたら混乱は拡大するだろう。ここは従うしかない。
「わかりました。あたし、行きます」
「あたしも一緒だ。かまわないな?」
「舞美さまおひとりと言われたが、ここであんたとひと悶着起こせとの命令は出ていない。好きにしろ」
「ものわかりがいいな。あんた、名前は?」
「三年のビーツロッドだ。ユンゲル子爵の三男だ」
「ふうん。骨のありそうな感じだね。あたしはシャロネット。こんど剣のお手合わせをお願いしたいな、ビーツロッドさま?」
「ビーツ、でいい。位はあんたが上だ」
なんか知らないがかっこいいと思った。大国のお姫さまにも動じない強い意志を感じる。剣の腕も相当なんだろう。
案の定、総括騎士団に囲まれたわたしたちに近寄づいてこれる生徒はいなかった。それだけこの人たちは実力があるのだ。あたしたちはなんの障害もなく学院内を歩いた。学院の上層階に学生総括会の会室があった。
「ドアまでお進みください。われわれはここまでです」
「守っていただいてありがとうございます」
ビーツロッドさんはハッとした顔をした。
「い、いえ、警護者の腕が警護するものより劣るのはいささか心痛でしたが、われわれ一同、身に余る栄誉をいただき心から感謝申し上げます」
なんか大げさだなあ。声を聞きつけたのかドアの向こうから美しい響きの声がした。
「お入りなさい」
「入れってよ」
「ちょっとシャロネット、お行儀よくしてよ」
「ふん」
ドアが開かれるとそこは別世界だった。白を基調にした豪華な室内装飾が一番に目を引いた。院長室より豪華だ。
「あら、あなたも来ちゃったの?招待はしていないはずよ、シャロネットさん」
「何せ世間知らずの赤ん坊みたいなやつだからな。騙されんようにしっかり見張らんと」
ステファニーさんとシャロネットは互いににらみ合い、それこそ視線同士がバチバチと火花を散らしているようだった。
最初のコメントを投稿しよう!