149  えらいことになった

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149  えらいことになった

「で、何をしたの、それ」 「えへへへ、それは秘密です」 「あたしにでも?」 「マミさんは誰にも言わないんでしょうけど、でも秘密です」 「ふうん、ならいいわ」 「あたしの心を読むんですか?」 「そんなことはしないわ。面白くなくなるから」 「はい?」 マミさんは仮面の下で何を考えているんだろう。キリス兄さんのことだけじゃないのかな?ちょっともやっとした気持ちでマミさんの部屋を出た。 「マミさまはなんとおっしゃってた?」 寮の部屋にみんないた。ディアナとリリスが心配そうにしている。 「今日のことを報告したけど、学生総括会のことはなにもおっしゃらなかった」 「まあそうでしょうね。マミさまが関心向けるとは思えないわ」 「あんた知ってて…」 「あんまり偉そうだったから脅しただけよ。でもいい気味だったわ」 シャロネットは意地悪く言った。あんたのせいでこっちまで同情して、やんなくてもいい仕事を押し付けられたんだからね、まったく。 「で、あんたのエスコートを決める舞美争奪超人トライアスロン、っていうのはどうすんの?」 「さっき手を打って来たわ。学園の敷地って広くて森や池、岩場もあるから、なかなか面白くなりそうよ」 「舞美、あんた面白がってない?」 「さあね。でももうこんな騒ぎが起きないよう、しっかり躾しとかないとね」 「なにそれ怖い」 翌日、学生総括会の発表にみな驚いた。学生総括会の代議員委員長に舞美がなったことと、それに伴い舞美に個人的にエスコートを申し込むのは禁止され、総括会の主催で前夜祭行事として行われるレース形式の優勝者にその権利が与えられるというのだ。王女をエスコートできる、しかも男女問わずだ。みなが参加を望んでしまった。 「学院のほとんどの生徒が参加することになりました。半分は面白がってですが、あとの半分は本気です」 ステファニーさんはマジ真剣な目をしてあたしにそう告げた。いやー、えらいことになったわ。総括会室で役員たちは複雑な表情を浮かべていたが、マミさんがとくに怒ってない、と話すと安どの表情にみななった。よっぽど心配していたんだと思う。 「ところでちょっと問題、というか横やりが入りました。知っての通りここは王立の学院で、国の行政機関には一切発言はさせませんが、王宮は違います。今朝早く学院長が直々に王宮に呼ばれ、クランベルト宰相から通達があったそうです」 「王宮?兄がなんか言って来たんですか?」 「わかりません。誰の意志であるかまでは。ただ、出場者を学院のものだけに限定するのではなく、広く一般にもその機会を与えろ、ということだそうです」 「なにそれ!マジで言ってるの?」 「舞美さん、いえ、姫。興奮なさらないでください。こっちもなにがなんだかわからないんですから」 「一般の人たちまでって、それって収集つかなくなるじゃないの!」 えらいことになった。国中でそんな騒ぎになってるなんて。まったく兄は何を考えてるのかしら! 「それはこちらで何とか考えだしました。出場に条件を付けるのです。なんたってここは魔導学院なんですから、参加資格は当然魔法使いであるべきでしょう。それに国中と言ったって魔法を使えるの者はそういない。魔法使い、魔法士、魔導師が対象になります。まあ外国からの参加も予想されるから、ざっと三万八千人くらいしかいないでしょうね」 「は?」 マジバカげてる!三万八千っていったら2027年の東京マラソンの参加者と同じくらいじゃない。どうすんのそんなに。 「まあ、学院の敷地的には問題ないし、コース自体も結界で囲えば混乱はないと思うわ。警備は騎士団が担当してくれるし、軍も協力してくれるから」 「そういう問題じゃないです!いいですか、あたしが景品になっちゃってるんですよ?わかりますか!そんな大勢の。信じられません」 「それも王族の務めでは?」 「意味わかんない!王族の務め?ていうか、どこの世界に王女を景品にする義務っていうのが存在するわけ?」 「しかしこれは王宮の意向だから」 「兄に直接言います!」 「学院長が手紙を預かって来たそうだ」 「手紙?」 「二通ある。あなた宛てだ」 ステファニーさんは恭しく二通の手紙をレターボックスから取り出した。王家の紋章が入っていた。 「兄さんから?」 あたしが手紙を開くと、そこには日本語で文字が書かれていた。誰にも読めない、あたしと兄だけの手紙だ。 ――拝啓 面白いことをしてるな、舞美。俺は愉快だ。 どうせならもっと盛り上げようぜ。 妹思いのお兄ちゃんより。 「あのクソ兄貴の奴め!」 「舞美さん、王に対し不敬ですよ」 「いいんです!まったくもう、今度会ったらただじゃおかない。それにこんなこと馬鹿げてるわ!絶対中止にします!」 「まあ落ち着いて。次の手紙もあるでしょ?」 もう一通ある。やはり王家の紋章の入ったもの。はてこれは…マミさんからだ!これは日本語ではなかった。 ――愛する妹へ あなたがなにを考え、何を成すか わたしは興味があります。 願わくば、どこまでも あなたらしくいてください。 楽しいレースを期待します。 追伸 中止にしたら許しません ああ、もうダメだ。マミさんがやれと言って来た。もはや取り消せない。もうどうにでもなれ。
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