152  トラップ・レース

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152  トラップ・レース

大勢の人々が走り出していく。いや、全員じゃない。スタート直後から爆発が起き始めたのだ。目に見えぬ何かが地面にある。それは踏むと爆発するらしい。 「こりゃ魔方陣による地雷攻撃か。舞美のやつ、とんでもねえことしやがるな」 俺はぶつくさつぶやきながら中盤の人たちに紛れて走っていた。そうだ。王たる俺も出場しているのだ。ただし俺だとわからないよう、仮面をかぶっている。みんなにも知られたくないし、それにマミが出るなんて考えもしなかった。ちょっとした遊びだと思っていたが、こいつは腹をくくらないと無事じゃすまないかもしれない。 「マスター、ご注意を。このトラップ、巧妙でしかも強力です」 「シリウス、わかっている。ああ、あいついつの間にこんな…」 「感心している場合ではありません、マスター。マスターご自身は魔方陣は効力を無効化されますが、他のもののとばっちりは免れません。お早めに皆から離脱を図られますよう」 「ああ、そのようだ」 言ってるそばから俺の隣を走っていたヤツが吹き飛んだ。 「あっぶねえっ!今の破片型だったじゃないか。指向性の爆発じゃねえのか?」 「わたしが盾となりましたからご無事で済んだのです。どうか棄権してくれませんか?危険だけに」 「笑えん。いいか、こっちももう意地だ。妹なんかに負けねえ!」 「マスター!無茶をしない、あっ、ぎゃあああああああっ!」 シリウスが蜘蛛の巣のようなものに絡まっている。ぜんぜん見えなかった。腕をあげたな、舞美。 森の中で半数が脱落したようだ。まったくハチャメチャな、こりゃあトラップ・レースだな。いやそれはもう戦場のようだ。 「ちっくしょう、罠の仕掛け方が巧妙すぎるぜ。いやこりゃあ異常だ。いったいなに考えたらこんなえげつねえことできるんだ!あのバカ妹め」 魔導でシールドを張りながらだと走るのがどうしても遅くなる。罠を突破して早く走るのはトラップが発動した瞬間に対応するしかない。そんなことできるのはわずかだ。もちろん俺は魔法を無効化できるから関係ない。 目前をすごい爆発が走って行く。マミだ。マミのやつがいちいちトラップを爆破しながら進んでいるのだ。もはや人間じゃねえぞ、あれ。トップは舞美だが、もうすぐ追いつきそうだ。くそう、俺もこうしてらんない! 「ヤバい、追いつかれちゃう!」 あたしは夢中で走ったが、マミさんは早い!あたしだって身体能力は自信があるが、マミさんはそれを上回るというのか?ああ、もう追いつかれちゃうー! 「あっ?」 マミさんが消えた!やった!かかった。魔方陣によるトラップだけじゃないのよ。本物の罠も仕掛けてあるんだ。マミさんは落とし穴に落ちたんだ。ごめんね、マミさん。 マミが目の前から消えた?ああ、落とし穴じゃねえか、あれ。舞美のやつあんなものまで?だが陸上自衛隊舐めんなよ!トラップはレンジャーの十八番だ。そんなもんにかかるほど、俺はぼんくらじゃねえっ! と思った瞬間、ロープに吊るされた丸太が襲ってきた。辛くもかわすとロープに足をとられた。跳ね上げ式の罠だった。急いでロープをナイフで切ると、それ自体が罠になっていて、大きな網が覆いかぶさって来る。転がりながらよけるとそこここに槍ぶすまが出ていて、しかも落とし穴が随所にある。殺す気で来ている。俺はそう感じた。こんなことするやつはゲリラか殺人狂か舞美しかいねえ。 「舞美、てめえええ」 俺は猛烈な怒りがわいた。 「な、なに、あの仮面の男の人!なに怒ってんの?」 あたしは走りながらちょっとびっくりした。罠にかからない、いやかかっても食い破って来る。なんなんだ、あいつ。 「いよう、お嬢さん、また会ったね」 「へ?」 見ると隣りに黒い人影が走っている。まったく気がつかなかった。あたしの魔導感知に引っかからないなんて! 「だ、誰よあんた!」 「いやだなあ、もう忘れちゃった?ぼくだよ、ぼく。デルフィさ」 「デルフィ?」 「そうだよ、お姫さま」 なんか思い出した。記憶にあるわ。えーと、黒衣に黒いマスク。金髪にマスクから覗く金色の瞳…。あ? 「あんたガルアシアの悪魔王子!」 「ちょっと、ひどいよ、それ」 「だってみんなそう呼んでいるわ!てか、なんであんたがここにいるのよ」 「ぼくはデルフィ・ライトリオン。なんでもこれはきみのダンスパートナーを選ぶレースだっていうじゃないか。ぼくが出なくてどうするんだい」 「どうもこうもないわ!帰れ」 「ちょ、ひどい」 「うっさい!あんたになんかかまってらんないわ!」 あたしはひょいと身をかがめた。糸が張られている。デルフィも慌てて身をかがめた。ふふふ、そうすると思った。糸はダミーだ。身をかがめたらジャンプできないでしょ?ハイ魔方陣。あたしにだけは作動しないけどね。吹き飛べ。 「ぎゃああああああっ!」 「さよならー」 あーっはっはっは。なかなかきれいに後方へ飛んで行く。あ、ヤバい。変な仮面の人も追いついてきた。
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